世論輿論

LGBT法案③ なぜ当事者からも慎重論が噴出するのか

あなたはどう考える?

性的少数者(LGBT)への理解増進を図る法案を巡る議論をテーマに小欄を始めて以降、LGBT当事者を含めて多数のメールやファクスをいただいている。今回は寄せられた意見を中心に当事者がどう考えているのか紹介したい。

《3年前、会社にカミングアウト。会社は私の意思を尊重し、いきなり性別を変えるのではなく最善な方向を協議していくということで納得。その1年後に職場内へのカミングアウト、さらに1年後に制服を女性用に変更して現在では女性装で仕事をしている》

50代のトランスジェンダー(生まれたときの性別とは異なる性を生きたいと願う)女性(生まれたときの性別は男性)はこうつづり、勤務先の親身な対応に救われたという。一方で《(法案は)全く違う方向に行っているようで非常に残念》と懸念する。

懸念の中心にあるのは、LGBTへの配慮によって男女の区別をなくしたトイレや、公衆浴場の利用を巡る問題などに焦点があたりすぎていることだという。

《個人的には女子トイレを使わせろなど、権利を振りかざすつもりはない》とし、LGBTの権利保護を声高に言うほど《偏見をさらに助長するような風潮になっている》と吐露している。

ゲイを告白している元参院議員の松浦大悟氏に一連の法案議論について聞いた。「偏見を持つ人はいるが、かつてキリスト教の一部宗派が同性婚を禁じていたことによる欧米のような社会的な差別とはレベルが違う」と強調。その上で法案は「当事者以外の権利保護を訴える人たちの声ばかり反映し、当事者の真の声を聞いていない」と言い切る。特にトランスジェンダーはトイレなど男女が分かれている施設で「迷惑がかからないように利用し、よい意味であいまいにしてきた」といい、「法制化されることによって『あなたは本物ですか?』と厳格なジャッジを受けかねない。そうなると当事者にとって地獄の日々がやってくる」と警告する。

「大切なのは意識転換」

奈良市在住のトランスジェンダー男性(生まれたときの性別は女性)、深田羊皇(ようこう)さん(65)は手紙と著書を送付してくれた。

深田さんは、かつて大阪・北新地のバーでホストとして働いていたころ、周囲から「なぜ女に戻る努力をしないのか」など、心ない言葉を浴びせられたこともあったという。だが、ペットサロンを開業した今、《周囲の人たちが現状を受け入れてくれて、差別されるようなことは一切ない》と断言。《LGBは性的指向、Tは性自認で全く別なのに(法案は)ひとまとめにしている時点で間違っている。正しく理解できれば法案が不要であることが分かる》と訴える。

深田さんの著書「カミングアウトそれから」(クレイン)は、性自認に悩んだ苦労話ばかりではない。公衆トイレは男性用を使い銭湯では女湯で使い分けていることなど、トランスジェンダーとしての処世術や生きるヒントで満ちている。

もちろん、深田さんのような生き方ができず、苦悩にぶつかっている人もいるだろう。だからといって、法案によって悩みが解消されるとは思えない。

深田さんの著書に印象深い一節がある。

《心ない人はどこにでもいる。いじめや差別、迫害はどこにでもある。(中略)法律を変えることより、性転換することより、大切なのは人びとの意識転換だと信じている》

今回のテーマを担当するのは大阪社会部次長 津田大資(つだ・だいすけ)

入社25年目の49歳。家族は妻と大学生の長女。女性の権利、ひいては家族を守りたいという思いもあり、このテーマに取り組む。ただ、悲しいことに家庭内序列は現在第3位。

みなさんの意見を募集しています

「世論(せろん)」と「輿論(よろん)」は近年同一の意味とされています。しかし、かつて、世論は世間の空気的な意見、輿論は議論を踏まえた人々の公的意見として使い分けられていました。本コーナーは、記者と読者のみなさんが賛否あるテーマについて紙上とサイトで議論を交わし、世論を輿論に昇華させていく場にしたいと思います。広く意見を募集します。意見はメールなどでお寄せください

メール seronyoron@sankei.co.jp

ツイッター @SankeiNews_WEST

ファクス 06・6633・9740

会員限定記事会員サービス詳細