先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の招待国として、広島市を訪問したインドのナレンドラ・モディ首相と面会し、絵画を手渡した画家がいる。同市在住の洋画家、高山博子さん(65)。信仰とともに暮らすインドの人々の深い精神性に魅せられ、女性や子供、自然を題材に「生命の根源」をテーマに油彩画を長年、描いてきた高山さんの画業が、モディ首相につながった。
蓮華手菩薩の油彩画
サミット期間中の5月20日、同市内のホテルでモディ首相と対面した高山さん。「にこにこと笑顔で迎えてくださいました。熱いまなざしを向けてくださり、素晴らしい時間でした。対面して直接、絵を渡す機会を得て、長い間、インドと関わらせてもらった感謝の気持ちでいっぱいになりました」と感動を話す。
贈呈した油彩画は「蓮華手菩薩」(20号)。アジャンタ石窟の第1窟に描かれた壁画で知られる。高山さんは「世界の人々が自然を尊び、愛にあふれ、平和な文化が栄えますように」という文面の手紙と扇子、自著を添えてモディ首相に手渡した。
モディ首相は「美しい絵です。ありがとう」と喜んでいたという。同日、「インドとの深い絆を持つアーティスト、高山博子さんにお会いしました。高山さんは印日の文化的な関係を強化するために幅広く活躍しています。自分のアートワークを私にプレゼントしてくださいました」とツイッターで写真を添えて発信している。
「文化的な交流を」
高山さんは20代のころから何度もインドを訪問した。自分を画業に導いてくれた国と強い感謝の気持ちを持っており、タゴール国際大学(国立ヴィシュヴァ・バーラティ大学)で訪問教授として教鞭(きょうべん)をとったこともある。
昨年11月から今年1月にかけて広島県立美術館で開かれた日印国交樹立70周年を記念する特別展では、インドの画家、ウペンドラ・マハラティと高山さんの作品が数多く展示された。
今回の面会では、モディ首相からは「インドへは何回行きましたか。どこへ行きましたか」と尋ねられ、高山さんは「25回くらいです」。さらに「大学ではどのような授業をしましたか」などと質問があり、「日本の墨を使う指導です。わび、さびの文化を伝えました」などと答えた。
モディ首相は「インドと日本の文化的な交流をしましょう」と提案。「その時は高山さんがサポートしてください」と述べたという。
ガンジーの胸像
モディ首相の広島市訪問に合わせ、同市中区の平和記念公園近くの元安川の河岸緑地に「インド独立の父」とされるマハトマ・ガンジーの胸像が設置された。昨年12月、米ニューヨークにある国連本部の庭園にも設置された胸像で、インド政府側から広島市に申し出があり、市が受け入れて実現した。
ガンジーは、非暴力不服従運動を指揮し、インドを英国の植民地支配から独立に導いた人物として有名で、その政治思想は今も世界に大きな影響を与えている。
広島市によると、今年4月にインド側から「人類の回復力と不屈の精神を示す顕著な例ともいえる広島市に胸像を寄贈したい」と申し出があった。市はすべての核保有国がとるべき行動は核兵器のない世界実現に向け一歩を踏み出すことであるとの考えをしっかり受け止めてもらいたい-などの考えをインド側に伝えたうえで、ガンジーが非暴力の哲学と実践の先駆者であり、活動が世界的に評価されていることと、市が力を入れている「平和文化」の振興の考え方とガンジーの理念・活動が一致している点に着目し、胸像の受け入れを決めたとしている。
20日にモディ首相や同市の松井一実市長らが出席して除幕式を開催。高山さんはこの除幕式にもインド側の招待者として出席していた。
高山さんは、「素晴らしいひとときでした。今までと変わらず、この道一筋に、日本とインドとの絆が深まるようお手伝いできたら」と話していた。(村上栄一)