平原を望む丘の上にその博物館跡はあった。焼け落ちた屋根とへし折れた鉄骨…。1年以上も放置された残骸は同時に、郷土の誇りを守った住民の勇敢な行動の証でもあった。
首都キーウ(キエフ)の北方約80キロの町イバンキフ。小さな郷土史博物館には地元出身の国民的芸術家、マリア・プリマチェンコ(1909~97年)の絵画など三十数点が収蔵・展示されていた。
正式な美術教育を受けず「素朴派」と称されるプリマチェンコは刺繍(ししゅう)、織物、漆器などウクライナの伝統民芸を世界的な近代美術に昇華させた。パリやロンドンなど海外に広く展示され、ピカソやシャガールに「ウクライナ芸術の奇跡」と高く評価された。