1991年に第1回大会が開かれたサッカーの女子ワールドカップ(W杯)は、回を重ねるごとに規模が拡大している。今大会の賞金額は1億1千万ドル(約154億円)と、前回の約3・6倍に急増。人気の高まりを背景に男女間格差をなくす動きも顕著で、主催する国際サッカー連盟(FIFA)のジャンニ・インファンティノ会長は、次回の2027年大会の賞金は前年に行う男子W杯と同額にする目標を掲げる。一方、日本の女子サッカーは、人気面などで国際的な潮流に乗り遅れ気味だ。優勝経験国の日本はどうすべきか。世界の頂点に立った当事者らが思いや願いを語った。
準備不足痛感
5月29日に開かれた日本サッカー協会のメディアブリーフィング。11年ドイツ大会で優勝した女子日本代表「なでしこジャパン」を率いた佐々木則夫・女子委員長は、W杯による盛り上がりを一過性で終わらせないための「準備」の大切さを訴えた。
ブリーフィングは、日本サッカー協会とウォルト・ディズニー・ジャパンが昨年から共同で実施している女子サッカー応援プロジェクト「JFA Magical Field Inspired by Disney」の2年目の取り組みを紹介。その中で、「単純にW杯で優勝しても、普及に関して連携を取れる体制、基盤が構築されておらず、ブームで終わってしまった。(当時の)なでしこリーグの試合を見て、それで終わりだった」と11年の状況を振り返った佐々木委員長は「結果を出しても(それをどう生かすかの)準備がされていなければ、普及にはつながらない。W杯からつながるものを基に普及に努め、女子サッカーを未来あるものにしないといけない」と強調した。
「準備」の意味合いも込めて行われるのが、サッカーの初心者や未経験者の小学生と保護者を対象にした今回のイベントだ。昨年から実施している小学校1~3年生を対象とした「First Touch」はプレミアムと通常版の2種類に分け、計26回開催。さらに、小学6年生以下を対象とした「Second Touch」を新たに設けた。
いずれも、サッカーの楽しさを知ってもらう内容で、佐々木委員長は「トップのなでしこジャパンの活躍と普及は両輪で頑張っていかないといけない。普及をもっと一歩一歩、進めていくことが重要」と訴える。
目標に掲げるのは女子選手の登録者数を現状の約5万人から20万人に増やすこと。人口比で換算すると日本は現在、約0・1%。ドイツやフランスは0・5%程度の登録者数がいることから、日本でも4~5倍に増やすことは可能だとみている。
結果がすべて
こうした普及への強い気持ちは、11年W杯を戦った元なでしこジャパンの選手たちにも共通する。
5月6日、堺市立サッカー・ナショナルトレーニングセンターで行われた「キリンファミリーチャレンジカップ2023」に、優勝メンバーの澤穂希さん、宮間あやさん、阪口夢穂さんのレジェンド3人がゲスト参加した。
イベントで行われたのは、歩いて競技する「ウオーキングフットボール」と呼ばれるサッカー。全員が走きでプレーし、ヘディングなどは禁止という、性別や年齢、障害の有無などに関係なく楽しめる。その魅力に触れ、それぞれ思いを口にした。
「これをきっかけにサッカーを始める子供が増えたらいいし、そうじゃなくても、興味を持って試合を見に行ったり、ボールを蹴ってみたりする機会が増えたらと思う」と感想を語った澤さんは「なでしこジャパンの結果も踏まえ、女子W杯に注目してもらえたら…。子供たちの目標になるとか、夢を持ってなでしこジャパンに入りたいと思うようになってほしい」と期待を寄せる。
その上で、今回のW杯に臨むなでしこジャパンのメンバーに対して「私が経験したのは、本当に結果が全て。結果を出すことで、いろんな人が注目する。選手もそれを受け止め、戦わなきゃいけないと思う。フィールドで結果を出すのは選手。応援はもちろんしているし、選手にしかできないから、選手がいろんなことを感じて、考えて受け止め、ピッチで結果を出してもらうのが一番だと思う」と鼓舞する。
選手を知って
「いろいろ覚悟を持っていると思うので、頑張ってほしいという気持ちだけ」と今回の女子W杯で世界と戦うメンバーを思いやった宮間さんは「いろんな良いことって連鎖していくと思う。逆に良くないことも連鎖する。なので、小さくてもいいから、良いことを積み重ねていけるような雰囲気作りができれば」と自身が取り組みたいことを説明。「今の選手たちをたくさん知ってほしい。今は調べたら何でも出てくる時代なので、『なでしこ』などのワードで、いろいろと調べてもらえれば」と希望を話した。
しばらく運動をしていなかったという阪口さんは「(私たちとは)別のチームだし、同じことをしろとは思わない。時代も変わった。今の選手たちは選手たちで絶対に良さはある。比べるとかではない。その良さを発揮して頑張ってほしい。ただただ、応援している」と4年に1度の大舞台に臨むなでしこジャパンにエールを送った。(編集委員 北川信行)