ゴールの瞬間、会場は驚き交じりのどよめきに包まれ、主役の泉谷は満面の笑みを浮かべた。4日の陸上日本選手権最終日、男子110メートル障害決勝で、自身の持つ日本記録を2年ぶりに更新する13秒04で3連覇。東京五輪の金メダルと同タイムという世界トップレベルの好記録で世界選手権内定を決め、「率直にうれしいです」と声を上ずらせた。
序盤は高山に先行された。「焦ったけど、自分の走りができた」。ギアを上げた中盤に逆転すると、そのままゴールまで突き抜けた。5月のセイコー・ゴールデングランプリ横浜で13秒07を出していたこともあり「(13秒)00台を2本出せたことは自信になる。(世界選手権の決勝も)見えてきましたね」と手応え十分だった。
身長175センチ。世界の猛者と比べても小柄だ。準決勝で敗退した昨年の世界選手権では190センチ前後の選手と隣り合わせとなり「腰の位置が高いから強いなと思っちゃいました。ビビっちゃう部分もあった」と話していた。しかし、世界で戦えるタイムを残した今は違う。「大きいと(足が)もつれる。小さくてよかった」。弱気になっていた過去と決別するかのように胸を張った。
ハードル間でスピードを落とさないように「刻む」トレーニングを徹底的に重ねたことで、小さな体は大きな武器になってきた。「海外でも同じように中盤からの刻みをやっていけるか」とにらむ。8月にはブダペストで世界を驚かせるべく、さらに歩みを進めていく。(大石豊佳)