「アワイチ」攻略サイクリストに人気 大阪~淡路島航路復活の予感

兵庫・淡路島の洲本港に姿をみせた「深日洲本ライナー」。知名度は着実に上がっているという=兵庫県洲本市
兵庫・淡路島の洲本港に姿をみせた「深日洲本ライナー」。知名度は着実に上がっているという=兵庫県洲本市

島内を1周する約150キロのサイクリングコース「アワイチ」で全国のサイクリストから人気を集める兵庫県の淡路島。明石海峡大橋開通の翌年、廃止された島と大阪府を往復する定期航路を復活させる機運が高まっている。航路は平成29年度から社会実験としてよみがえり、今年度は5月3日から11月5日までの土日祝日とお盆期間に運航。2025年大阪・関西万博も見据え、関係者は「利用者を増やし、定期航路として復活させたい」と意気込む。

日帰りで楽しめる「アワイチ」

5月3日午前9時ごろ。朝の光を受けて、淡路島の洲本港(兵庫県洲本市)に深日(ふけ)港(大阪府岬町)で乗客を乗せた「深日洲本ライナー」が姿をみせた。

洲本港に降り立ったサイクリスト。淡路島を自転車で一周する「アワイチ」の人気は定着している=兵庫県洲本市
洲本港に降り立ったサイクリスト。淡路島を自転車で一周する「アワイチ」の人気は定着している=兵庫県洲本市
愛車に前輪を取り付けるサイクリストたち。目指すは自転車での淡路島一周「アワイチ」だ=兵庫県洲本市
愛車に前輪を取り付けるサイクリストたち。目指すは自転車での淡路島一周「アワイチ」だ=兵庫県洲本市

島に降り立った利用者で目立ったのは、自転車の車輪を手にしたサイクリストたち。自転車愛好家の間では「アワイチ」(淡路島1周を走破するコース)が定着。アワイチ狙いの乗客は愛車に車輪を手際よく取り付け、次々と島内へ繰り出していった。船には自転車31台を積むことができる。

和歌山市から訪れた会社員、伊東仁一さん(50)は「この船があれば、日帰りで『アワイチ』が楽しめる」。折り返しの深日港行きに乗り込み、和歌山・紀の川沿いでサイクリングを楽しむという兵庫県南あわじ市の会社員、楠木勝之さん(50)も「車で和歌山に行けば3時間ほどかかるのでありがたい。定期航路が復活してくれれば」と語った。

洲本市から和歌山市まで、車では明石海峡大橋経由で約3時間。それに対し、この航路なら約1時間で済む。両市は紀淡海峡を挟んで展望できる位置にあるにもかかわらず、定期航路空白の状態が約25年続く。

支援物資届けた実績「防災や街の活性化に」

岬町などによると、深日と洲本の両港を結ぶ航路は昭和42年に就航した。だが、平成10年に明石海峡大橋が開通し、洲本・深日両港を結ぶ定期航路は利用者が減ったため11年に廃止された。ほかにも、深日港と淡路島・津名港(兵庫県淡路市)や四国・徳島港(徳島市)などを結ぶルートも存在したが、いずれも廃止されている。

洲本港へ向かう乗客を乗せる「深日洲本ライナー」。今は社会実験だが、定期航路としての復活に期待がかかる=大阪府岬町、深日港
洲本港へ向かう乗客を乗せる「深日洲本ライナー」。今は社会実験だが、定期航路としての復活に期待がかかる=大阪府岬町、深日港

そうした中で岬町が29年度に社会実験として深日-洲本航路をよみがえらせ、30年度以降は洲本市も協力。国の交付金を活用するなどしながら期間限定で運航を続ける。この間、令和2年度は新型コロナウイルス禍のため中止となっている。

洲本市によると、平成25年4月、最大震度6弱を記録した淡路島地震がきっかけの一つだった。岬町がこのルートでブルーシートなどの支援物資を淡路島に届けたことから、航路復活への機運が高まったという。

淡路島と本土は橋でつながってはいるが、雪など天候状況によっては通行止めとなり、「孤島」となる可能性も。そうした事情を踏まえ、上崎勝規・洲本市長は「大阪湾南部経由で本土との『ライン』をつなぐ必要がある。2025年大阪・関西万博までには定期航路にしたい」と話す。

岬町側も思いは同じだ。町の担当者は「人の流れができれば、まちの活性化や防災の面でも役立つ」。田代堯(たかし)町長も「(2市町に)滞在し、観光をしてもらいながら、『大阪湾南周りルート』が構築できるようにしていきたい」とした。

課題は採算性、今季の目標は1万人

「深日洲本ライナー」の船内。兵庫・洲本市の洲本港と大阪・岬町の深日港を約1時間で結ぶ=兵庫県洲本市
「深日洲本ライナー」の船内。兵庫・洲本市の洲本港と大阪・岬町の深日港を約1時間で結ぶ=兵庫県洲本市

深日洲本ライナーに関し、洲本市によると、平成29年度は3カ月余りで約1万1千人が、30年度は約8カ月で約1万5200人が利用した。30年度までは平日も運航したが、翌年度以降は土日祝日とお盆時期の運航に変更。4年度は6月25日から11月27日まで運航し、約5800人が利用した。

関係者が注目するのはサイクリストらの需要だ。「アワイチ」の人気が高まった効果か、3年度は14日間の就航で自転車約460台、4年度は57日間で約890台の利用があった。

定期航路復活に向けては、採算性が課題となる。新潟港と新潟県の離島・粟島を結ぶ航路も社会実験として平成30年、44年ぶりに復活したものの利用者数が伸び悩み、コロナ禍で中止となった令和2年度以降は就航していない。

洲本市の担当者は、定期航路として復活させるには運賃収入の増加が必須と指摘する。現在、収入の半分は国の交付金。その交付金が得られる期限は6年度までで、「7年度以降も続けられるのか、今年度は答えを出す時期に来ている」という。

一方、2025年大阪・関西万博では、サイクリストだけでなく、淡路島に多くの観光客が訪れるチャンスがある。洲本市の担当者は、今季の利用者目標を1万人とした上で「(洲本港近くの)洲本温泉を利用できるチケットなど付加価値を付けることも検討したい。そうした恩恵を受けられる仕組みを作ることが、利用者増につながる」と強調する。

具体的には、温泉などを備えた市内の総合レジャー施設「ウェルネスパーク五色」を利用する際に使えるクーポン券(大人は3千円で3500円分、子供は1500円で2千円分、1人3セットまで購入可)を近く提供する予定だ。洲本港から同施設への無料のバスも運行する。(藤崎真生)

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