「これからは微博(ウェイボ)で連絡を取らないか」
モスクワに住むロシア人の知人からの連絡に一瞬息をのんだ。微博は中国の代表的な短文投稿サイトでメッセージの送受信もできる。ロシアではフェイスブックやツイッターなど米系のサービスが当局によりブロックされている。知人はアジアのサービスなら使いやすいと思ったのかもしれないが、微博を利用していない記者は断った。
ただ痛感したのは経済分野でのロシアの対中依存の深まりだ。ウクライナ侵略で先進国の経済制裁を受けるなか、ロシアの企業経営者らは対中ビジネスを拡大させようと「〝中国詣で〟に繰り出している」(日露貿易関係者)という。知人もビジネスを行っており、自然と中国のサービスを使い始めたのだろうか。
2023年に入りロシア経済に異変が起きている。財政収支の大幅な赤字だ。ロシア産原油の輸出価格に上限を設定した制裁の影響などにより、年初以降、石油・ガス収入(石油・ガス企業への課税収入)が大幅に減少している。欧米諸国がロシア産原油の禁輸を打ち出す一方、中国、インドが原油を大量購入したことが収入をもたらしていたが、価格上限を理由にロシアは中印に大幅な割引を余儀なくされているもようだ。
先進国による制裁に対し、ロシアは輸出企業に外貨の売却を強制するなどの〝奇策〟を繰り出して通貨の暴落を防いでいた。対露制裁が効果を発揮し始めたのならば、好ましいことだ。
ただ、このような状況はロシアに対する中国の影響力を一層高めかねない。財政赤字の悪化を押しとどめるため、ロシア政府は保有する人民元を大量に売却している事実も報じられている。市民も人民元をため込み、ルーブルに換金して収益を得ている。ロシアは複合的に中国の経済圏に取り込まれつつある。
膨大な資源を安価に供給せざるを得ないロシアは中国にとり都合の良い存在だ。終わりの見えないウクライナ侵略で自国経済を悪化させるプーチン政権の維持を中国が望んだとしても不思議ではない。
しかし、その先にあるのは中露のさらなる連携強化だ。両国の隣国である日本は、その動向を入念に注視する必要がある。
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【プロフィル】黒川信雄
平成13年日本工業新聞社入社。産経新聞経済本部、外信部を経て26年11月からモスクワ特派員を務めた。30年1月から経済部(大阪)。