【シンガポール=森浩】4日に閉幕したアジア安全保障会議(シャングリラ対話)は、深まる米中対立が改めて浮き彫りとなった。米国が対話を拒む中国側を批判すれば、中国は語気を強めて反論。双方の溝を前に、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国や太平洋島嶼(とうしょ)国からは対立継続を憂慮する声が上がった。
「今こそ話し合うべき時だ。対話が必要だ」。3日に講演したオースティン米国務長官は、米側が要請した国防相会談に中国が応じなかったことを批判。対話に消極的な姿勢が「すぐに変わることを望んでいる」と注文を付けた。
さらに「すべての国が強制、脅迫を受けることなく、自由に繁栄できる地域」を推進すると強調し、各国の反発を招きながら海洋進出を進める中国を強く牽制(けんせい)した。
一方、中国の李尚福(り・しょうふく)国務委員兼国防相は4日の講演で、対話の重要性には触れつつも、「他国の内政に故意に干渉し、一方的な制裁を頻繁に行う大国がある」と名指しこそ避けたが、米国を批判した。また、対話を説く一方で中国軍関係者らに制裁を発動する米国の姿勢を「言行不一致」と指摘。李氏自身、ロシアとの兵器取引を巡って米国の制裁対象となっている。
米中の安保当局間の対話は、2022年8月のペロシ米下院議長(当時)訪台や、今年2月の米軍による中国の気球撃墜などを経て停滞中だ。安保会議でオースティン氏と李氏の接触はあいさつ程度にとどまり、完全な決裂はギリギリで回避された形だが、対話再開に向けた動きは鈍い。
そうした中、安保会議では米中対立が、地域の不安定化や偶発的な衝突につながるとの懸念が漂った。インドネシアのプラボウォ国防相は米中双方に「妥協した上での共存」を要求。フィジーのティコンドゥアンドゥア内務・移民相は「太平洋の島々はかつてないほど(米中という)大国の注目を集めている」と述べた上で、米中による影響力拡大が「緊張を招いている」とも言及し、対立の長期化を警戒した。