資金ゼロでも可能な米留学 就職にも有利「年収3倍に」

かつては日本人学生の留学先の定番だった米国の大学への留学者数が低迷している。日米間の経済格差の拡大や日本の少子化、他地域でも英語で学べる環境が整備されている点などが要因となっている。ただ、米留学は海外企業への就職に有利との見方は強く、多様な奨学金制度が知られていない実態もある。在大阪・神戸米総領事館は「留学の方法はさまざま。希望者は資金ゼロでもぜひ相談して」と呼び掛けている。

20年で4分の1以下に急落

「米国の大学に行き本当によかったと思う。手持ちの資金は限られていたが、探せば道はある」。米クレジットカード会社の日本支店に勤める武田裕貴さん(26)はそう強調した。

外資系企業で働くことを希望していた武田さんは神奈川県内の高校に在学中、就職に有利と考え米国の大学への進学を決意。安価で留学できる方法を探し、南部の大学なら可能と判断して2015年にケンタッキー州の大学に入学した。

さらに高校時代に部活でサッカーをしていた経験を生かし、1年時に米国内の約50校へサッカー部に入ることを条件に転校を申し込んだ。ペンシルベニア州の大学から声がかかり、サッカーの実技試験を受けて合格。学費の8割を免除される奨学金を勝ち取り転校した。

経営学部を卒業後、20年4月に米損保会社の日本支店に入社。その後2度の転職を経た結果、3年あまりで「年収が3倍に増えた」という。

ただ、武田さんのように米国の大学に進学する日本人は減少傾向にある。米国際教育研究所によると、米国の大学(学部)で学ぶ日本人学生は00年には約3万2千人と東アジア全体で首位だったが、20年には約7200人に急落した。一方、同年に中国は約12万5600人、インドは約2万3700人。増加傾向が鮮明になっている。

背景に経済格差拡大

大きな理由として指摘されるのが、日米間の経済格差の拡大だ。国際通貨基金(IMF)によると、日本の国内総生産(GDP)は00年時点で4兆9700億ドル(約670兆円)だったが、20年も5兆500億ドルとほぼ横ばいにとどまる。一方で米国は10兆2500億ドルから21兆600億ドルに倍増。中国は1兆2100億ドルから14兆8600億ドルと10倍以上に増大した。

また米国では物価上昇も続いており、長年にわたりデフレ状態にあった日本とは物価面でも大きな差ができている。主要な大学に留学するには、年間700万~800万円の資金が必要ともいわれる。

留学情報を提供する留学ジャーナルの加藤ゆかり副社長は「少子化が進み、国内の大学に行きやすくなったことも背景にある」と指摘。少子化で大学受験者数が減り、希望校に行きやすくなった実情がある。加藤氏によると、経済的な負担を減らすため、在学中にアルバイトがしやすい米国以外の英語圏に留学したり、生活費が安価なアジアを留学先にしたりする動きが顕著という。

一方で留学支援サービスを手掛ける全研の上奥由和取締役は「卒業後に海外の主要企業で就職するには、やはり米国留学が優位だ。小さな大学でも厳しい訓練を受けたと国際的に評価される。他のアジア諸国から米国への留学が活発なのは、その価値を理解しているからだろう」と分析する。マレーシアの教育機関など、近年人気が高まる留学先についても「多くはまだ企業側の評価が定まっていない」と語る。

上奥氏は、米国のIT産業の集積地であるシリコンバレーでは人材を囲い込むために「大学在学中のインターン生に年収1千万円規模の初任給が提示されるケースもある」と語り、日本の学生が海外への留学や就職に関心を持たない現状に疑問を投げかける。

豊富な奨学金制度

米国の大学で学ぶ学費や生活費を工面することは容易ではないが、実際には奨学金制度が豊富にあるのも事実だ。日本国内の財団や経済団体が提供しているほか、「米国内の私立大学では成績の優秀さにより奨学金を提供するケースも少なくない。学費や生活費が全額免除になる場合もある」(加藤氏)。

また、武田さんのように地方都市の大学を選び、奨学金と組み合わせることで「日本の地方から東京都内の大学に進学するのと同水準程度の予算でまかなうことも可能になる」(上奥氏)という。

日本からの留学を活性化させたい米政府も、留学に役立つ情報提供を活発化させている。

大阪では「Education(エデュケーション=教育)USA」という米国務省が支援する情報提供の枠組みを通じ、在大阪・神戸総領事館が留学促進のための施策を手がける。ニール・ムラタ領事は「手持ち資金が一切なくてもいい。まずは留学を検討してほしい。ウェブサイトでもさまざまな情報を提供している」と語る。サイトからは留学をめぐるオンライン相談の予約も可能だ。

ムラタ氏は「米国留学には政府が資金を拠出するフルブライト奨学金や、民間の財団、大学が用意した独自の奨学金などがあり、返済不要のものも多い」とし、情報収集の重要性を強調する。

同総領事館はまた、新型コロナウイルス禍で開催を見送ってきた米大学の留学担当者を集めて開催するフェアを今後、大阪で再開する方向で調整を進めており、留学者の増加に期待を込めている。(黒川信雄)

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