開幕まで700日を切った2025年大阪・関西万博のコンセプトは「いのち輝く未来社会のデザイン」だが、これは人間に限ったものではない。万博を運営する日本国際博覧会協会(万博協会)は今年、獣医師会の関係者らを中心とした委員会を立ち上げ、ペットと同伴の入場可否について検討を進めている。ペット同伴の入場が認められれば万博として世界初だが、他の来場者への配慮や糞尿(ふんにょう)の処理といった課題も山積する。課題解決に向けて、どのような対応が求められているのか。
「命あるものすべてに寄り添う」
「コンセプトの『いのち』は人だけを指しているわけではない。家族としてのペットとの入場を可能にすることでレガシーを残し、よりよい社会の実現を目指したい」。万博協会はこう説明する。
愛猫家の松井一郎・前大阪市長も昨年夏ごろにペット同伴を検討するよう提案。在任中には記者団から自身の飼い猫を会場に連れていくか問われると「本人たち(飼い猫)は家を出たがらへんから、希望を聞かないといけない」としながらも、「命あるものすべてに寄り添うのが当然。ペットも入れるようにしてほしい」と発言し、人間と共生しているペットの入場を求めた。
万博協会は、ペット同伴の可否を協議するため、獣医師会やイベント会社の関係者らで作る委員会を立ち上げ今年3月、初会合を開いた。委員会は非公開だが、入場可能な動物の種類や各国のパビリオンへの同伴の可否などについて検討しているという。
ペットにも入場料?
ペットの入場を認めるにあたっては、クリアすべき課題がさまざまあるようだ。
来場者や他のペットに危害を加えないか▽動物アレルギーのある人や苦手な人への配慮▽糞尿の処理や清掃▽同伴可能なエリア▽ペットの飲食や体調管理▽会場内の音や光によって興奮しないか-など課題は多岐にわたる。
対策としては、ペットを乗せて移動できる専用カートの導入やエリアの制限、入場料の徴収、同意書の提出などが想定される。
また、会場となる夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)にマイカーで行くことは原則禁止される予定で、ペットも公共交通機関に乗せる必要がある。
夢洲へは、大阪メトロ中央線またはシャトルバス、船での乗り入れに限られる見通しだ。大阪メトロではペットの車内持ち込みを一部認めており、専用のキャリーケースなどに入れ、ひざに乗せることができるサイズであれば、犬や猫のほか、小鳥や魚の持ち込みが追加料金なしで乗車可能という。
シャトルバスは運行する複数社でルールが異なるといい、大阪府市が共同設置する万博推進局は「各社の定める規定を考慮して、同伴可能な動物の種類を決める必要がある」としている。
HTBはOK、USJは禁止
実際、国内にはペットの同伴を認めているテーマパークもある。ハウステンボス(HTB、長崎県佐世保市)では、飼い主に同意書の記入を求めた上で、ペットの入場が可能で、万博協会は運用ルールなどを参考にするという。
広大な敷地を有するHTBでは「パーク内でペットを散歩させたい」という来場者の要望が多く寄せられ、平成22年からペットの入場が可能となった。現在は犬と猫に限定し追加料金なしで入場を認めている。
HTBではペット同伴について、細かくルールを定めている。入場の際に、糞尿処理用のポリ袋や水を所持していることを確認▽リードを必ず着用する▽ベンチやテーブルにペットを乗せない▽ブラッシングはしない▽ショップやアトラクションへの立ち入りは禁止-などを利用者に求めている。
その一方で、レストランのテラス席ではペットと一緒に食事もできる。水くみ場や一時的に犬をつなぎ留められるリードフックもパーク内に10カ所以上設置している。
HTBの広報は「厳しくルールを定めているが、すべてのお客さまにパークを楽しんでもらうため。これまでにトラブルはなく好評いただいている」と話す。
だが、東京ディズニーリゾート(千葉県浦安市)やユニバーサルスタジオジャパン(USJ、大阪市此花区)では、いずれもペットの入場は認めていない。USJでは同伴ができない代わりに、パーク外にあるペットの一時預かり施設を設置する対応をとっている。
推進局によると、府市などには市民らから賛否の意見が寄せられ、中には「ほんまにやるのか」「ペットのためになるのか」といった声もあるという。
推進局は「いろんな意見を加味しつつ、国内のテーマパークやイベントの事例を参考にしながら検討を進めたい」と話している。(石橋明日佳)