産経新聞の単独インタビューに応じた台湾の次期総統選の有力候補、柯文哲(か・ぶんてつ)前台北市長との主なやり取りは以下の通り。(聞き手 矢板明夫)
-なぜ総統選挙に出馬するのか
今の台湾は内政も外交も問題が山積している。特に中国との関係は最悪な状況にある。早急に解決しなければならないと考えている。私の選挙のスローガンの中に「台湾自主、両岸和平」というのがある。つまり、台湾の民主主義と自由を守りつつ、中国と対話し、戦争を避けることだ。
「独立」ではなく、「自主」という言葉を使っていることが大事だ。ほとんどの台湾の有権者は「現状維持」を希望しているから、現状をいかに守ることが政治家の仕事で、あえて中国を刺激する必要はない。これまで台湾の政治を担ってきた二大政党のうち、中国国民党は中国の言うことを聞きすぎていて、台湾の独自性が失われかねない。一方、現在の与党である民主進歩党は中国と対抗することばかり考えているから、戦争のリスクが高くなる。だから、台湾民衆党が主導する「中間路線」が必要だ。
-台湾海峡で武力衝突が起きる可能性は
合理的に考えれば、中国軍がすぐに台湾を攻めることはないと考えているが、突発事件が起きる可能性がある。台湾海峡周辺で最近、軍事的緊張が高まっており、飛行機や船などが衝突するようなことがあれば、武力衝突に発展する可能性は否定できない。そうなれば、全世界が巻き込まれる。だから、われわれはより一層慎重に対応しなければならない。
私は武力衝突を避けるために、二つのことをしなければならないと考えている。一つは台湾自身の防衛力を高めること、もう一つは中国側と対話を重ねることだ。民進党政権も「北京と対話したい」と言っているが、中国共産党との間で、信頼関係が全くないため対話にならない。
-あなたの対中政策は
台湾と中国の関係は、協力、競争、対抗の三つのことを同時に行わなければならないと考えている。防災や感染病予防などの分野で協力しなければならいことはたくさんあり、経済分野などで競争相手になることも多い。そして、中国が台湾に対し武力侵攻を準備するなら、軍事的に対抗しなければならない。
今の民進党政権は対抗することばかりを強調しているから、両岸関係を改善させようという努力が足りない。例えば、「一つの中国」の受け入れを中国が台湾に求めている。民進党政権は拒否しているが、私なら「一つの中国はいろいろな解釈ができるので、どういう意味ですか」と聞き返す。そこから対話が始まると思う。「受け入れる」のではなく、「拒否」でもない。相手のメンツを大事にしつつ対話することが重要だ。
-あなたの対米政策は
台湾にとって、米国は最も重要な国だと認識している。外交も安全保障も米国に頼るところは非常に多い。だから米国との関係を大事にしなければならない。台湾の内部で最近、「米国は信用できない」とする「疑米論」を唱える人もいるが、私は反対だ。「米国側に立ちつつ中国と対話を重ねる」というのが私の基本的なスタンスだ。
-蔡英文政権をどう評価するのか
外交分野でよくやっていると思う。特に米国と非常に良い関係を築いたことを私も高く評価する。内政に関しても良いところと悪いところがあり、完全に否定はしない。ただ、対中政策はダメだ。それに民進党政権も以前の国民党政権と同じく、汚職問題がひどい、権力を私物化する現象は目に余る。だから、政権交代が必要だ。
-訪日の主な日程は
日本との関係は台湾にとって極めて重要だと考えているので、6月4日から8日までの訪日を非常に楽しみにしている。日本の与野党の主要政治家と会談するほか、複数のシンクタンクを訪問し、学者らとも交流する。大学で講演する日程もあり日本の若者とも意見を交換する。日本の皆さんに台湾の現状や私たちの考え方をしっかりと伝えていきたい。
-これから日台関係を推進するのに具体的に何をするのか
まずは安保対話を推進したい。李登輝元総統は以前、私に「日米台のハイレベル安保対話をやらなければだめだ」といったことがあった。私への政治的遺言だと考えている。それを推進したい。
それから日本との交流でいろんな制限を突破したい、例えば私は今、日本を訪問できるが、総統になればそれができなくなる。おかしいと思う。私の長男は今、東京大学の博士課程で勉強している。数年後に卒業する予定だ。彼の卒業式に、台湾の総統としてではなく父親として出席したい。実現できれば、一つの外交上の突破になる。