主張

「1.26」の危機 少子化対策の効果高めよ 首相は歳出改革に指導力を

岸田文雄首相が「次元の異なる少子化対策」とうたう看板政策として、こども未来戦略方針の素案がまとまった。集中取り組み期間として今後3年をかけて、年3兆円台半ばの追加予算を投じる。

素案公表から間髪を入れず、女性1人が生涯に産む子供の推定人数を示す昨年の合計特殊出生率が過去最低の1・26となったことが明らかになった。今まさに危機的な状況にあることは、だれの目にもはっきりしていよう。

対策を速やかに実行に移さなくてはならない。その際に問われるのは政策効果だ。年末に先送りした詳細な財源論でも責任ある結論が求められる。国難である少子化に歯止めをかけられなかった過去と同じ轍(てつ)を踏んではならない。

国難克服へ機を逃すな

少子化は国の在り方に関わる重大な問題だ。経済成長や社会保障制度に与える影響は大きい。7年連続となった出生率低下の流れを反転させるためにも、抜本的な対策を講じようとする岸田政権の姿勢は強く支持したい。

その上で肝要なのは施策にメリハリをつけることである。児童手当の拡充では支給期間を高校卒業まで延長し、第3子以降は月3万円に増額する。子育て世代に対する経済的支援の強化は大事だ。

ただし、所得制限の撤廃は理解に苦しむ。限られた予算を有効活用するには所得制限を設ける方が理に適(かな)う。

そもそも自民党は旧民主党政権時、所得制限のない子ども手当を批判しており、その後、所得制限のある児童手当が復活した経緯がある。しかも、政府は昨年10月以降、年収1200万円以上の高所得世帯を特例給付の対象から外して所得制限を強めたばかりだ。

なし崩し的に方針を転換するのは節操がない。制限撤廃にどれほど効果があるのか疑問である。

育児休業給付については、夫婦ともに育休を取得する場合、休業前の手取りの実質10割に引き上げる。男女を問わず仕事と育児を両立できる社会を実現すべきだ。育児が女性に集中する「ワンオペ育児」からの脱却につながるよう給付の引き上げを生かしたい。

保育では、就労要件を問わず時間単位などで保育施設を利用できる「こども誰でも通園制度」を創設する。働いていない親が支援を得られず孤立したり、虐待に走ったりすることを防ぎたい。

少子化対策は時間との闘いといわれる。昨年の出生数は77万747人と過去最少だが、1990年代には120万人前後だった。この世代は現在20~30代で、結婚や出産の適齢期に相当する。

「2030年代に入るまでの6~7年が少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンス」と指摘されるのはこのためだ。一連の施策の効果を不断に検証し、実効性を高める取り組みが必要だ。

増税論議にも向き合え

焦点の財源は、社会保障分野の徹底した歳出改革と、社会保険料の上乗せを念頭に置いた支援金制度の創設で捻出する方針だ。

だが、詳細を年末に先送りしたのはいただけない。歳出改革により「実質的に追加負担を生じさせないことを目指す」というが、現実味に欠けるのではないか。65歳以上の高齢者数がピークを迎えるのは20年後と推計され、今後も医療・介護の需要は高まろう。社会保障費の抑制は容易ではない。

その中でどこまで歳出に切り込むのか。まずは改革の中身を明確に示すべきだ。歳出削減で医療・介護サービスに影響が及ぶ場合は国民に対し丁寧に説明し、理解を求めなければなるまい。

来年度は、医療サービス価格である「診療報酬」と、介護サービス価格の「介護報酬」の同時改定の年に当たる。

報酬の引き下げを通じて社会保障費を圧縮することを想定しているのだろうが、医療・介護団体の反発が予想される。岸田首相の指導力と決断力が求められよう。

支援金制度については医療保険の仕組みを活用する方向だ。後期高齢者を含め幅広い世代が加入しているためだが、子育て世帯の負担がより重くのしかかる可能性がある。それが少子化対策の財源としてふさわしいといえるのか。

もちろん、借金のつけを将来に回す国債に安易に頼るべきではない。素案には消費税などの増税は行わないと記されたが、国民が広く薄く負担する消費税を含む増税論議から逃げてはならない。

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