漁船保険「戦乱特約」北海道で急増 北ミサイル、露侵略影響

日本取り巻く情勢が保険加入にも影響している
日本取り巻く情勢が保険加入にも影響している

日本周辺を取り巻く情勢が緊迫化するなか、他国からの砲撃や銃撃などで船や乗員が被害を受けた場合に補償する漁船保険の「戦乱等特約」への加入が増えている。ロシアのウクライナ侵略に伴う日露関係の悪化や北朝鮮から弾道ミサイルなどの発射が相次いだことで北海道は令和4年度に急増。尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺で中国が挑発行為を先鋭化させる同県では、加入率が全国平均の約4・5倍と突出している。

特約は通常の漁船保険に追加して加入することで、戦争や拿捕(だほ)、他国からの攻撃で船体や乗組員、積み荷が被害を受けた場合に補償対象となる。定員5人の小型漁船(19トン)の場合、船体補償に最大5千万円、乗組員の死亡に1人あたり1200万円まで補償され、保険料は年間9290円。

日本漁船保険組合(東京)によると、特約の加入件数は3年度から4年度にかけて全国で455件増加。老朽化などで漁船が減り、加入件数が減少する自治体もあるなか、ロシアや北朝鮮の脅威にさらされた北海道では、6296件から7277件と1年で千件近く増えた。

全国では漁船保険に加入する漁船のうち15・11%の漁船が特約も追加して契約している。だが、北海道では36・79%と全国平均の倍以上で、同組合保険業務部の山本憲助部長は「周辺海域の緊張が高まっていることも要因」と推察する。

平成29年8月には、北朝鮮が発射した弾道ミサイルが北海道・渡島(おしま)半島と襟裳岬の上空を通過した後、太平洋上に落下。その後も発射が相次いだ。同組合道南支所(函館市)によると、支所管内では戦乱特約の前身の「特殊保険」の加入件数が28年度は0件だったが、29年度だけで3561件の加入があったという。

尖閣諸島周辺で中国海警船の領海侵入の頻度が急増している沖縄県は、北朝鮮のミサイルの脅威もあり、全国平均をはるかに上回る69・11%の漁船が戦乱等特約を追加している。

日本大危機管理学部の福田充教授は「北朝鮮のミサイルだけでなく、北方ではロシア、南方では台湾有事も想定され、緊張感が高まっている。戦乱等特約のニーズは漁業関係者に不安が広がっていることを示している」と指摘した。

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