せっかち特有の「いらち運転」が招く惨劇と遺族の慟哭

松本さんが持ち歩いているパスケース。事故で亡くなった長女の写真が入っている=1日、大阪市城東区
松本さんが持ち歩いているパスケース。事故で亡くなった長女の写真が入っている=1日、大阪市城東区

せっかちな人特有の「いらち運転」が交通死亡事故につながっているとして、大阪府警は1日、府内の主要路線で速度違反の取り締まり強化をスタートした。期間は8月末までの3カ月。安全運転の浸透を図りたい考えだ。

府警によると、今年に入り、交通事故による死者は全国最多の72人(5月末現在、速報値)。全国ワーストだった昨年を18人上回るハイペースだ。府警は自分本位で心にゆとりのない運転が事故を誘発しているとし「いらち運転」と名付けた上で、対策に乗り出した。

8月末まで例年事故が多発する国道1号や同26号、同170号に加え、大阪中央環状線の4路線を中心に府内全域で速度違反の取り締まりを強化するという。

速度取り締まりに出動する白バイ隊員ら=1日、大阪市城東区
速度取り締まりに出動する白バイ隊員ら=1日、大阪市城東区

府警交通総務課の阿古敏浩課長補佐は「スピードを抑えることは事故の防止だけでなく、万一の際の被害軽減にもつながる。ゆとりある安全運転に努めてほしい」と話す。

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府内の交通事故死者数が全国ワーストとなる中、大阪市内で1日、遺族による警察官を対象とした講演会があった。娘を亡くした男性は事故から丸1年となるのを前に、癒えることのない悲しみや被害の記憶を語った。

遺族は府内在住の会社員、松本一敏さん(58)。大阪市住之江区の交差点で昨年6月2日、自転車で通勤中の長女=当時(28)=が、左折の大型トラックに巻き込まれた。

周囲から「ミンミン」と呼ばれ、みんなに慕われていた長女。幼い頃から人見知りせず、両親にも頻繁に手紙やプレゼントをくれる自慢の娘だった。

交通警察官を前に思いを語る松本一敏さん(中央)=1日、大阪市城東区
交通警察官を前に思いを語る松本一敏さん(中央)=1日、大阪市城東区

事故当時は派遣先での仕事ぶりが評価され、正社員に登用された直後。この日も始業より1時間早く出社しようとしていた中でのできごとだった。

5メートル以上引きずられた長女は変わり果てた姿になっていた。開いたままの目や口は「何があったの」と松本さんと妻に問いかけているようにも感じたという。

トラックの運転手は約20年前にも同様の死亡事故を起こしており、公判に参加した松本さんが長女の名前や年齢を問うても覚えていなかった。「絶望で人間としての神経をまひさせるしかなかった」と振り返る。

娘を亡くし、ドライバーの運転マナーの悪さが以前よりも目につくようになった。「ウインカーを出さずに車線変更をしたり、禁止場所に駐車したり。死亡事故が全国ワーストというのもうなずける」

講演は交通違反の取り締まりに従事する警察官の意識向上を図るべく、府警が松本さんに打診し、交通警察官約50人が耳を傾けた。

松本さんは講演後、「命日の前にこうした機会をもらったのも娘の導きと思う。数多くの事故の裏にある苦しみが伝わっていれば」と話した。(花輪理徳)

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