【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記の妹、金与正(ヨジョン)党副部長は1日、北朝鮮が5月31日に失敗した軍事偵察衛星の打ち上げについて談話を出し、「衛星は遠からず宇宙軌道に正確に入り、任務遂行に着手する」と早期に成功させると表明した。事実上の弾道ミサイル発射である打ち上げを非難した米国に「宇宙利用権の侵害」と反論し、朝鮮中央通信を通じて談話と同時に打ち上げ場面の写真も公表した。
北朝鮮が失敗後にあえて発射場面を公開するのは異例。国際社会に「正当な宇宙開発」とアピールする狙いがありそうだ。写真の飛翔(ひしょう)体はエンジン構造が新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」と同様で、ICBM技術を流用したことが分かる。噴射された煙の色から旧来の液体燃料が使われたとみられる。
発射には北西部、東倉里(トンチャンリ)の発射場で新造された施設が用いられたもよう。これに関し、韓国の情報機関、国家情報院は31日、通常約20日かかる準備を数日に短縮し、新しい施設が完工しない状態で焦って打ち上げを強行したことが失敗の一因になったとの分析を国会議員に報告した。韓国が数日前に独自開発ロケットによる実用衛星打ち上げに成功したことも影響したとみている。観覧施設も設置され、正恩氏が発射に立ち会った可能性が高いという。
米国拠点の北朝鮮分析サイト「38ノース」は発射場の衛星写真から、失敗後も打ち上げ地点とは別の場所で車両などの活発な活動が確認され、再発射に向けた準備の可能性を指摘した。
米政府は打ち上げについて弾道ミサイル技術を使った北朝鮮の一切の発射を禁じる国連安全保障理事会決議に違反すると批判。これに対し、与正氏は米国が衛星や偵察機で北朝鮮の動向を監視しており、「自己矛盾の詭弁(きべん)だ」と反論した。米側が提案する対話については「対話する内容もなく必要性も感じない」と一蹴した。その上で、北朝鮮との対決がどれほど危険か認めざるを得ないよう「一層攻勢的な姿勢で対応を続けていく」と警告した。
与正氏は失敗には言及しなかった。北朝鮮は31日、打ち上げ後間もなく、外国向けの朝鮮中央通信を通じて失敗を認めたが、国内住民も見る党機関紙の労働新聞やテレビ、ラジオでは失敗の事実を伝えていない。