<特報>政府が外交政策発信強化 海外メディア招請、中露に対抗

政府がグローバルサウス(GS)と呼ばれる新興国・途上国などを対象に、日本の外交政策の発信強化を進めている。広島市で5月19~21日に開かれた先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)では、海外メディアを日本に招請するプレスツアーを実施。ロシアや中国が自国に有利な「ナラティブ(言説)」の浸透を図る地域に向けて日本の立場を発信することで、中露の影響力拡大に対抗する狙いがある。

政府はスリランカ、モンゴル、クック諸島、アルゼンチン、メキシコ、カザフスタン、サウジアラビア、トルコ、フィリピン、南アフリカの計10カ国の記者のほか、アラブ首長国連邦(UAE)、マレーシア、ケニアの計3カ国のテレビ局関係者を日本へ招いた。

日本の外交政策や社会情勢などを取り上げた記事や番組の制作を行う約束で、政府が渡航費や宿泊費を負担。招請された各国のメディア関係者はサミット開催期間を含む約1週間、広島など日本各地を訪れ、取材した。

外務省担当者は「GSへ発信力のあるメディアに日本の考え方を知って発信してもらうことが狙いだ」と説明する。

政府がGS諸国に対する政策発信を強化する背景には、ロシアによるウクライナ侵略が続く中、ロシアが事実とは異なるナラティブの拡散を続けている実情がある。ロシアが影響力の拡大を図るアフリカなどの途上国の間では、世界的な食料・エネルギー問題は対露制裁をはじめとするG7の政策が招いた危機だとする誤った見方が浸透していると指摘されている。

ロシアが関与する言説はロシア語の通じる旧ソ連圏で特に浸透しやすい。旧ソ連のカザフスタンから招請された記者はロシア語による発信も行っているといい、外務省幹部は「日本の立場を伝えてもらう意義がある」と期待を込める。

政府のプレスツアーは、中国をにらんだ取り組みでもある。招請されたスリランカは相手国を借金漬けにして権益を奪う中国の「債務のわな」に陥ったとされる国の一つだ。政府は日本を含むG7と中国の開発金融の手法には透明性や公平性の観点から大きな違いがあると「丁寧に説明した」(政府関係者)という。

中露は偽情報や誤情報を含むナラティブを通じ、国際的な世論操作を強めている。政府にはこうした動きをにらんだ継続的な対処が求められる。(岡田美月)

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