高校ラグビーの聖地「花園ラグビー場」(大阪府東大阪市)があり、強豪校がひしめく大阪で、ラグビー部の部員不足が深刻だ。令和4年度の府内の部員数は78校で1475人と約20年前の半分程度に落ち込んでいる。部員数減少は少子化の影響が大きく、全国的な傾向だが、大阪は都道府県別の部員数1位からも転落、関係者は危機感を募らせる。事態を打開しようとOBや元日本代表のラガーマンらが立ち上がり、体験入部を兼ねた支援イベントを聖地・花園で開催。再興に向けた取り組みをスタートさせた。
部活動できる環境
「やってみると、面白い」。参加した生徒の顔がほころんだ。「史上最高の合同体験入部」と題して5月3日に開かれた支援イベント「大阪府高校ラグビーカミングデー」には、府内の公私立高校28校約250人が参加。約65人のラグビー初心者が体験入部した。
2019年ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会の会場の一つでもあった花園はラガーマンあこがれの地。体験入部の初心者がプレーできるというのはぜいたくな体験だ。
高校入学までラグビーは未経験だったという北野高1年の岡部大葵(たいき)さん(15)は「痛い、怖いというイメージがあったが、やってみると面白いスポーツ。他校の人ともプレーできたので同じラグビー仲間という近さを感じた」と話していた。
指導にあたったのは、大阪出身の名ラガーマンたち。いずれも元日本代表で、広瀬俊朗さん(北野高OB)やコベルコ神戸スティーラーズの山下裕史さん(都島工高OB)らが技術や戦術の指導を行った。
イベントは府内の高校ラグビーOBらでつくる府高校ラグビー交流会(下平憲義代表・北野高OB)が主催。当初は北野高ラグビー部創部100周年を記念した企画だったが、高校ラグビー部の部員不足解消に向け、部員勧誘を支援する合同体験入部も兼ねる内容になった。
開会式には、高校ラグビー経験者の吉村洋文知事や橋下徹元大阪市長らの応援メッセージも。吉村知事は「みんなで楕円(だえん)球を追いかけるのはすばらしい。応援します」とエールを送っていた。
15人そろわないことも
全国高体連の加盟・登録状況によると、全国の高校ラグビー部は令和4年度が892校1万7649人で全国的にも減少傾向だ。かつては全国の都道府県で大阪が一番部員数が多く、平成15年度には、147校2675人の部員がいたが、部員数はおおむね半減。かつては都道府県別でも1位だったが、令和4年度は東京都に次いで2位となっている。
ラグビーは1チーム15人で、試合をするには最低30人が必要。大人数の参加を必要とするスポーツとあって、部員確保に悩むチームも少なくない。昨年度、鳥取代表を選ぶ県予選では倉吉東が予選無試合で花園に出場するという事態に。3校が予選にエントリーしたが、ほかの2校は負傷などで選手が15人そろわなかったためだ。
大阪府内でも合同チームが増えており、イベントに参加した40代の男性教諭は「うちは部員は2~3年生で2人。1年生は4~5人入部すればいい方」と話していた。合同チームの部員は、平日は単独での自主トレか近隣学校との少人数練習。全員が集まる機会は土日曜日などに限られるため試合数が絶対的に少ない。移動にかかる交通費の負担も大きいという。
「人格形成にメリット」
ラグビーは激しいコンタクトプレーもあり、保護者から子供がけがをしないかといった心配の声が寄せられることも多いという。
花園で行われたイベントでは、広瀬さんや山下さんらが自身の体験談を披露しながら保護者向けに「子供の成長にどうつなげられるかを考えて」といった呼び掛けもしていた。
会場には保護者も訪れており、高2の息子がラグビー部員の父親(56)は「けがをしないか心配だが、本人はいたって楽しそう。人格形成にメリットがあると思っているので、やりたいようにさせてあげたい」と話していた。
1人はみんなのために、みんなは1人のために-。ラグビー精神を示すこの言葉のように、みんなで助け合い、楽しさや苦しさを共有しあえるのがラグビーの魅力だ。
主催者によると、イベントは今後も続ける予定で、「ラグビーの魅力を改めて知ってもらい、もう一度盛り返したい。普通に15人以上が集まり、部活ができる環境になれば」と下平代表。今回のイベントに協力し、ラグビーのすばらしさを体験してきたOBたちの願いも同じだ。(勝田康三)