ロシアがウクライナによる露本土への攻撃激化の可能性に警戒を強めている。5月には首都モスクワに無人機(ドローン)が相次いで飛来し、ウクライナとの国境地帯では住民避難の動きも出始めた。プーチン政権は国民が「戦火」にさらされ、反戦機運が強まる事態を恐れているもようだ。
露国防省は5月30日、モスクワの民間施設を標的に無人機8機が飛来し、5機を撃墜したなどと発表した。ウクライナは「直接的には関与していない」としているが、露側はウクライナの「テロ」としている。
プーチン大統領は攻撃に対して「防空システムは良く機能した」とする一方、防空能力の向上を指示。同月3日には大統領府があるモスクワ中心部の宮殿クレムリンへのドローン攻撃が起きたばかりだった。
複数の露独立系メディアは30日の攻撃について、ドローンの撃墜場所などを基に、プーチン氏の公邸や政府高官、財界要人らエリート層の住宅が集まる高級住宅街が標的だった可能性が高いと報じた。
ウクライナに接する西部ベルゴロド州のグラトコフ知事は31日、ウクライナ側からの砲撃などが激化しているとし、国境地帯に住む子供を他州に避難させると発表した。同州ではウクライナ側で参戦するロシア人義勇兵部隊の越境攻撃もこれまでに発生。知事は6月1日、前日深夜から再び砲撃があり、9人が負傷したと強調した。
国営ロシア通信によると、黒海に面する露南部クラスノダール地方の製油所2カ所でも5月31日、ドローンが落下し、うち1カ所で火災が起きた。同地方にはプーチン氏が頻繁に訪れるリゾート地ソチがある。
一方、英国のクレバリー外相は訪問先のエストニアで30日の無人機攻撃について「詳細は不明」とした上で、「ウクライナにはロシアが部隊を投入してくる能力を弱体化させるため、国境を越えて武力を行使する権利がある」とし、越境攻撃も「自衛の一部」と擁護した。米国は露領内への攻撃を支持しないとの立場を一貫して表明しており、見解が分かれた形だ。