性的少数者(LGBT)への理解増進を図る流れが進められる中、選挙事務の現場で性別の取り扱いを巡って混乱も生じている。4月の統一地方選では、性同一性障害の候補を総務省が男性としたのに対し、地元の選挙管理委員会は女性とカウントとするケースもあった。性の多様性を尊重する意識が広がる一方で、総務省と選管のどちらの対応が適正といえるのか。「正解」は容易に見通せない。
統一地方選後半戦の一つとして4月16日に告示されたある市議選に、戸籍上は男性だが性自認は女性の候補が立候補を届け出た。市選管によると、立候補時に提出した戸籍の性別は「男性」だったが、届け出書の性別欄には「女」と記入。このため市選管は本人の性自認を尊重し、女性として届を受理した。
都道府県選管も総務省への報告で女性候補としていたが、後になって戸籍上は男性だと説明。これを受け、総務省は18日、統一選後半戦の全国の女性立候補者数を修正した。総務省選挙部管理課は集計における性別について「統一的な基準が必要で、戸籍を採用している」と説明する。
だが、都道府県選管は管内の候補者の性別の集計を修正せず、そのままとした。「修正すれば、それを見た候補者は自分のことだと気づく。地方議員のなり手が不足していることもあり、候補者の気持ちを考えた対応だった」と打ち明ける。
選挙公報には性別なし
LGBT政策情報センターの調べでは、これまでに国内の選挙で性同一性障害等を公表した上で立候補した人は、今回の統一選を含め少なくとも延べ32人。LGBTへの社会の理解が進むにつれ今後も増えることが予想されるが、各選管がどう対応していくかは不透明だ。先述の選管の担当者は「総務省とわれわれのどちらの対応が間違いともいえない。『正解』といえるものははないのだろう」と苦心をにじませる。
LGBTへの配慮を巡っては、近年、有権者に配布される選挙公報に立候補者の性別を記載しない自治体も増えている。一方で有権者にとっては、女性の社会進出を考える上で、候補者の性別は投票行動を左右する参考情報の一つになりうる。
選挙制度に詳しい行政管理研究センター研究員の岡野裕元さんは性別の統計が総務省と選管で異なったことについて「政策立案に活用していく基礎情報であり、有権者が投票の参考とする可能性もある。正確性が求められる」と問題があるとした。
また、今回の選管の対応は「選挙公報に性別を記載しない流れに沿ったものだろう」と推測した上で「有権者が男女の判断に迷うギャップは解決されていない」と指摘。今後、どう対応していくべきかは「LGBTへの理解や権利を巡っては、国会も裁判所もまさに動いている状態。立法府や司法の判断次第で、行政はこれまでの対応を根本から変えられる可能性もある」と話した。(織田淳嗣)