令和6年春に卒業予定の大学生らを対象にした企業の面接や筆記試験が1日、解禁された。各企業では、面接を対面形式に戻すなど、新型コロナウイルスの5類移行に伴う変化がみられた。学生優位の「売り手市場」やデジタル人材の確保を考慮し、採用活動を工夫する企業も多い。とはいえ、政府ルールの形骸化で公然と〝抜け駆け〟する競合他社への疑心暗鬼もあり、解禁日自体の位置づけも問われている。
日本生命保険は1日、東京や大阪を中心に全国で対面式の面接を実施した。昨年は担当者と就活生の間にアクリル板を設置したが、今年は撤去。面接前の検温も廃止し、マスクは就活生と担当者いずれも「個人の判断」に切り替えた。同社は「『画面越しだと企業や社員の雰囲気が伝わりづらい』という学生の声を踏まえ対応した」と説明する。
全日本空輸は4年ぶりに再開する客室乗務員の採用面接を、6日からオンラインで実施する予定だ。
未曽有の売り手市場とされる今年、企業は就活生をつなぎとめようと頭を悩ませている。トヨタ自動車は過去に採用実績がなかったり少なかったりした大学や専門学校などにもアプローチを強化し、「これまで以上に間口を広げて採用活動を展開している」という。
また、日立製作所はコロナ禍でサークル活動などが制限されたことに配慮し、面接で定番となる「学生時代に力を入れたこと(ガクチカ)」の質問を中止。代わりに取り組みたい社会課題やその理由を尋ねる「プレゼン選考」を導入した。
デジタル化を担う理系人材の争奪戦も激しい。日産自動車はインターンシップに加え、開発部門独自のイベントを通じて接点の機会創出に努める。三井住友海上火災保険はデータサイエンスなどIT系を中心に、業務内容に基づいて必要な人材を採用する「ジョブ型雇用」の導入に注力する。
一方、採用選考の解禁前に内定が相次ぐなど、就活の早期化は加速している。総合商社では、三菱商事が6年春採用の面接を3月と6月に実施。「最終学年に学業に専念するため早く就職活動を終えたいという学生の声に配慮した」(人事担当者)と説明する。ただ、競合からは「ルールを守らない企業が増えて就活が長期化し、学生は勉学に身が入らなくなる」(大手商社の人事担当役員)と懸念する声も上がっている。
流通大手担当者は、企業や就活生の動きが多様化する中、政府の日程ルールが「実情と合わなくなってきている」と指摘。旧来の新卒一括採用を前提としたルールを形式的に示すより、政府も推進する通年採用や、職種別に仕事体験ができるジョブ型インターンシップなどを一層後押しするほうが重要だと指摘する。(中村智隆、梶村孝徳、池田昇、遠藤一夫、西村利也)