政府の「次元の異なる少子化対策」の素案では、子供政策予算の大幅な増額が示されたが、少子化に歯止めをかける効果は限定的だとの見方がある。少子化の要因は、金銭だけでなく、家族や仕事に対する価値観の変化も大きいためだ。仕事の現場では〝男性中心〟の意識が今も強く、女性が無理なく仕事と家庭を両立できる環境を整えなければ、少子化の解消にはつながらない。
政府の少子化対策の目玉の一つが児童手当の拡充だ。新たに高校生に対し月1万円を支給するほか、第3子以降は月3万円に増額する。明治安田生命保険が昨年実施した子育てに関するアンケートでも、「子供は欲しいが難しい」と回答した女性の約5割が費用面を理由に挙げており、手当拡充は一定の負担軽減につながる。
しかし、大和総研の是枝俊悟主任研究員は「少子化対策という観点からはあまり効果は見込めないのではないか」と指摘する。1人の女性が生涯に産む子供の推定人数「合計特殊出生率」は令和3年に1・30まで下がり、2人目の子供を持つことすら難しさを感じている世帯が多い。3人目の子供への手当を拡充しても、恩恵を受ける世帯は少ない。厚生労働省の調査(3年)でも、3人以上の子供を持つ世帯は、全世帯の2・8%にとどまる。
そもそも子育て世帯に現金を給付する政策は、過去にも国内外で行われているが、コストの割に効果は限定的だとの指摘がある。子育てには年間100万円以上の費用がかかるとされる中、月1、2万円程度の補助を上乗せしても、子供を産む動機付けには弱い。
是枝氏は「男性育休の取得促進など、仕事と家庭の両立を支援する政策の方が出生率の向上にはつながりやすい」と指摘。企業や働く人の行動変容を促すことができれば、合計特殊出生率を0・1~0・2程度引き上げる効果が期待できると分析する。
日本では家事や育児の負担が女性に偏っており、出産後は非正規で働く割合が増える傾向にある。産後も正社員のまま働き続けることができれば、金銭が子育ての障害となるケースは大幅に減る可能性がある。ある経済官庁の幹部も「少子化対策の〝本丸〟は企業の働き方改革にある」と述べ、企業の変革を政策面で支える重要性を訴える。(蕎麦谷里志)