新潟市を拠点に、国内唯一の公立劇場専属舞踊団を18年、率いてきた舞踊家、金森穣(48)。時に地元自治体と対峙(たいじ)しながら「Noism Company Niigata」を、国内外から評価される舞踊団に育てた。今年に入り「闘う舞踊団」(夕書房)を上梓(じょうし)。4月に新作バレエ「かぐや姫」第2幕を東京バレエ団に振り付け、10月に第3幕と合わせ全幕初演予定で、勢いに乗っている。
そぎ落とし、突き詰め
4月末、東京・上野の東京文化会館で上演された金森演出振り付けの「かぐや姫」第2幕の、変貌ぶりに驚かされた。真っ白な空間と奥の階段、天井から下がる雪洞(ぼんぼり)状の照明だけのシンプルな空間。ダンサーの衣装も全身タイツで、徹底的に装飾を排した。
令和3年11月初演の第1幕は、昔話の素朴さが漂った。一方、第2幕は金森の師で現代バレエの巨匠、モーリス・ベジャール(1927~2007年)の舞台を想起させる、洗練された舞台。ダンサーの強靭(きょうじん)かつ繊細な肉体表現を引き出し、ドビュッシーの音楽、照明の変化だけで舞台を、かぐや姫が迷い込む宮廷に、鮮やかに変化させた。
「第1幕から時間が空き、作品からいったん離れたことによる気づきが、僕とダンサー双方にあった。衣装や美術をもっと抽象化し、音楽と振り付け、光と色彩によるそぎ落とした表現でも、物語は届く。もっと自分の美意識を、突き詰められる」と開幕前、語っていた金森。まるで三間四方の能舞台が、物語の展開により無限の広がりを見せるようなスケール感がある、「日本のバレエ」の誕生である。
「かぐや姫」は、東京バレエ団が、世界に発信できる〝日本発〟作品を目指し、金森に振り付けを依頼。竹取物語を元に、3年がかりで全3幕作品を完成させる企画だ。バレエの動きが基本だが、コンテンポラリーダンスの要素や、重心が下へ向かう振りも評判になった。虐げられる道児と宮廷との格差、環境問題など、社会的視点が盛り込まれるのも金森らしい。
「夢物語なら僕が作る必要はない。物語バレエの全幕作品を手掛ける振付家が海外にもあまりおらず、日本から世界に発信したい」
金森は過去、劇的舞踊と銘打ち「ROMEO&JULIETS」などの物語作品を手掛けてきた。その延長線上に今作があり、同バレエ団は海外上演も視野に入れている。
文化行政、著書で提言
金森初の著書「闘う舞踊団」は、生い立ちに始まり、ベジャールらに師事し欧州で過ごした10年など、半生がつづられる。読み応えがあるのが、帰国して新潟市民芸術文化会館の芸術監督に招かれ、劇場専属舞踊団を作って悪戦苦闘する日々の記録。
当初は稽古場も専属スタッフも不在で、予算も不透明な中、ゼロから舞踊団を立ち上げる日々は、日本の文化行政の脆弱(ぜいじゃく)さを示す現場中継のようだ。
「実体験を書いたら、結果として日本の文化行政への問題提起となり、反響は大きかった。日本には劇場が約2千あり、多額の税金が投じられているが、それが創作や文化発信につながってない。今、日本が国際発信しようとしているのは、アニメや漫画などコンテンツと呼ばれる〝商品〟。でもわれわれが創作しているのは〝文化〟だ」
経験に裏打ちされた言葉は重いが、100年後の日本の劇場文化への提言であり、読後感は爽快だ。(飯塚友子)
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「かぐや姫」の全3幕初演は10月20~22日、東京文化会館。12月2、3の両日、りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館。問い合わせはNBS(03・3791・8888)。