20年ぶりに新人4人が争う青森県知事選(6月4日投開票)は連日、人口減少対策や経済政策などを争点に、舌戦が繰り広げられている。自主投票の自民党県連は保守系2人に支持が割れ、分裂選挙を展開。青森のかじ取り役を誰に託すのか。刻々と近づく審判の日に向け、各陣営の訴えは熱を帯びる。
宮下氏
元むつ市長の宮下宗一郎氏(44)は「青森新時代」をキャッチフレーズに11項目にわたる政策を掲げる。街頭演説などで「時代が求めるのは実行力、発信力、スピード感。声なき声を拾い、力強く県政を前に進めていく」と力を込め、支持者は手製のうちわなどで声援を送る。
自主投票を決めた自民党や立憲民主党の一部県議らのほか、むつ市を中心とした下北地域の首長らが支援しているが、政党の垣根を越えた支援態勢を構築し、無党派層に支持を呼びかける。対話集会では車座になって支持者から質問を受け、政策を訴えるスタイルを貫く。交流サイト(SNS)も駆使し、陣営は「草の根の戦いで勝つ」と意気込む。
横垣氏
「憲法を守ってこそ、暮らしと平和を守ることができる。憲法を県政の中心に位置付けて運営する」
共産、社民の推薦を受ける元むつ市議の横垣成年氏(63)は「護憲」を前面に打ち出し、県政刷新を訴える。核燃料サイクル関連施設建設も批判し反原発を鮮明にする。
共産、社民両党の県組織の幹部や県議らが応援に駆け付けるほか、市民団体などとも連携。同日選の青森市長選の候補者とそろって各地を回り、ダブル選の相乗効果で票の上積みを狙う。選挙カーには「国にモノ言える知事を」「原発再稼働ストップ!」といったスローガンを掲示。共産党県委員会の畑中孝之委員長は「県政の転換か継続かを問う選挙だ」と強調する。
小野寺氏
「実行力を一番の武器に最大の課題である人口減少対策に立ち向かう」と力説するのは、前青森市長の小野寺晃彦氏(47)。経済対策、健康づくり、子育て支援などの72項目の政策を掲げ、ほとんどに数値目標を示している。
自民党の一部の国会議員のほか、県議会自民党会派29人の半数以上が小野寺氏を支援。津軽地方の大半の首長らも支持に回り、強固な保守層に支えられた組織戦の色合いが強い。
5期で引退する現職の三村申吾氏も事実上の後継指名の形で支持を表明し、各地の街頭演説で支持を呼びかける。1週間に全40市町村一巡を目標に東奔西走。陣営幹部は「政策を前面に打ち出していく」と強調する。
楠田氏
元損害保険会社員の楠田謙信氏(66)は、第1次産業の振興が県政発展の起爆剤になると訴える。「経済をよく知っている。県に大きな力を与えたい」と声をからす。具体策として農家の所得増や林業就業人口1万人、観光産業と1次産業を組み合わせた体験型の宿泊プランなどの公約を主張する。
「県内景気の悪さが身に染み、家族の反対を押し切って出馬した」と揺るぎない信念で出馬を決意し、妻の実家がある青森市浪岡を拠点に、津軽地方を中心に奔走する。支持組織や団体もなく、手探りの状況だが、「1次産業が発展すれば2次、3次産業が発展し、県経済全体の発展につながる」と各地で持論を説き、浸透を図る。
一方、県知事選を巡り県議会最大会派「自民党」(29人)の県議団は、宮下宗一郎氏と小野寺晃彦氏に支持がほぼ真っ二つに分かれ、保守分裂の様相を呈している。それぞれ支持する候補者の応援に入るなど実働部隊としてフル回転しているだけに、選挙後も尾を引く可能性があり、会派分裂の火種をはらむ。
「(知事選が)終わった後はコミュニケーションを図り、会長として責任を持ってノーサイドに取り組む」。自民党県連の津島淳会長は、分裂選挙に突入した知事選後に県連内でしこりが残らないよう、自ら汗を流す決意を示してみせた。
感情的なもつれが長引けば、次期衆院選に影響しかねない。阿部広悦筆頭副会長は「会派内のしこりを残さないことがわれわれの責務だ。選挙はケンカではない」と牽制し、知事選の結果にかかわらず、融和を図る考えだ。
今回の知事選を巡っては小野寺、宮下両氏から推薦要請を受けた自民党県連の選考委員会が小野寺氏の推薦を決めた。ところが、宮下氏を支持する党員らが強く反発し、選考委の決定が覆される異例の展開に。もつれた末に自主投票で落ち着いたものの、ある自民県議は「ここまでこじれ、ボタンの掛け違いがなぜ生じたのかを検証する必要がある」と、一連の選考過程に疑問を呈した。(福田徳行)