1期2年の任期を迎え、5月31日から2期目に入る経団連の十倉雅和会長は産経新聞などのインタビューに応じ、今後取り組むべき課題として分厚い中間層の復活や格差の是正を挙げた。主な一問一答は次の通り。
--1期目の振り返りと2期目への所感は
「1期目は多岐にわたる分野でわが国が目指すべき方向性や課題を示し、われわれの活動が実を結んだ充実した2年間だった。『成長と分配の好循環』の実現を通じ、日本経済にダイナミズムを取り戻して世界におけるプレゼンスを高める必要があり、一刻の猶予も許されない。好循環を現実のものとする上で、中心的な役割を担うのは分厚い中間層の形成。日本経済はデフレからの脱却と安定成長を達成できるか否かの正念場にあり、官民が連携しながら分厚い中間層の形成を実現していくことが急務だ。不退転の覚悟で取り組む」
「経団連がイニシアチブを取るべき喫緊の課題である『自由で開かれた国際経済秩序の再構築』をはじめ、地球規模の課題の解決に向けて民間外交を一層強化しいく。同盟国の米国との関係強化は極めて重要。この秋には欧州を訪ね、政府や経済界の要人と対話したい。今秋以降、訪中も視野に入ってくる。日韓関係を健全化し、グローバルな課題の解決に向けた取り組みの可能性を追求したい」
--1期目の成果を一つだけ挙げるとすれば何か
「一番苦労したのは(脱炭素に向けた)グリーントランスフォーメーション(GX)。産業界で利害が分かれる中で調整し、日本の取るべき方向の道筋を示し、それなりの成果があったのではないか。経団連の提言を全面的に盛り込んでもらう形で、GX推進法が5月に成立した」
--1期目にやり残したことは
「一つは格差の固定化と拡大、再生産(の是正)。米国がひどいとされるが、日本でも起こっていて、若者世代が結婚して子供を持ちたいと望まない一因や、日本経済が停滞する一因にもなっている。格差是正のため、分厚い中間層を作る提言をまとめたが、これを2期目にやりたい。そこをつなげるものとして、今年を基点として持続的な賃上げをぜひ実現したい」
--中国との民間外交をどう展開していくか
「われわれはグローバルな社会に生き、日本だけでなく世界も中国なしではやっていけない。中国も世界なしではやっていけない。そういう関係だ。中国を排除するのではなく、自由とか人権とか経済安全保障上の問題は(必要最小限に絞って厳重に管理する)「スモールヤード・ハイフェンス(高い柵で囲われた小さな庭)」でやるが、それ以外は中国も含めて自由貿易を行う。温暖化など地球規模の課題は一国だけ、G7(先進7カ国)だけでは解決できない。中国もグローバルサウス(南半球を中心とした新興・途上国)も全部入れないといけない。日本と中国が引っ張って東アジアの安定と発展を目指さなければならず、中国は大事なパートナーだ」
--令和5年春闘の賃上げ状況は
「及第点だと思う。いろいろな企業が取り組み、(経団連の第1次集計の)賃上げ率3・91%はベストの形で実現した。特にベースアップ(ベア)を中心に実現できたことには非常に意義がある」
--持続的な賃上げの実現には何が必要か
「賃上げが消費に回らないといけない。消費がいま抑えられているのは、漠とした日本社会への将来の不安が特に若者世代にあるからだ。その最たるものが社会保障制度。将来不安をなくし、消費に回すことが大事だ。また、働く人の7割を占める中小企業で(コストの適正な)取引価格への転嫁が進まないといけない」
--漫画やアニメなど日本のコンテンツ産業を強化する取り組みは
「私はかなり前のめりで、本気だ。(日本のバスケットボール漫画の新作アニメ映画)『スラムダンク』を韓国で500万を超える人が、上海では1000万人以上が見たというが、そこで終わっては非常にもったいない。そこから先、どう利用していくかだ。コンテンツは日本が持つ数少ない強みで、生かさないといけない。スラムダンクの『聖地』だと言って韓国の人が鎌倉を訪れるように(効果は)観光にも広がり、日本を知ってもらえる」
(聞き手 村山雅弥)