石仏は語る

二重光背の中に菩薩浮き彫り 比叡上仰木の六地蔵菩薩

比叡上仰木の六地蔵
比叡上仰木の六地蔵

大津市の仰木は、比叡山東斜面に開けた地域です。その仰木には浄土真宗本願寺派の専念寺があり、平安時代の康保年間(964~68年)に、恵心僧都(えしんそうず、源信)が創建したのに始まると伝えられています。当初は天台宗の寺院でしたが、寛永6(1629)年に准如(じゅんにょ)によって改宗したと言います。山並みにたどり着くと上仰木墓地の一角に小さな地蔵堂が建っており、地元では「念仏地蔵」とも称されています。

堂内に祀(まつ)られた石仏は、高さ約100センチ、幅約140センチ、厚さ約30センチの三角状の自然石に刻まれています。その中央蓮華座(れんげざ)には、下蓮弁三葉、上蓮弁七葉の単弁が線刻されます。その上に浅い二重光背を彫り凹(へこ)められた中に、阿弥陀如来の浮き彫り立像。像高約32センチ、目鼻立ちは穏やかに刻まれます。定印は分かりませんが、流れるような衲衣(のうえ)紋を線刻で表しています。

その左右両脇に3体ずつ6体の地蔵菩薩を、浅く彫り窪(くぼ)めた二重光背の中に浮き彫りとし、蓮華座は下蓮弁三葉、上蓮弁七葉の単弁線刻を刻みます。像高約23センチと小像ですが、その趣のある像容は稚拙ながら、持物印相の像形の違いがはっきりと見てとれます。

【石仏は語る】M上仰木の六地蔵CT
【石仏は語る】M上仰木の六地蔵CT

銘文はありませんが、その手がかりとなる一体の地蔵菩薩があります。舟形光背形の高さ約120センチ、幅約70センチ、厚さ約30センチの花崗岩(かこうがん)製、円頭光と身光背の総高約72センチを彫り凹め、像高約60センチの地蔵菩薩立像を半肉彫りとし、蓮華座は浅い肉彫りに蓮弁を線刻しています。持物の宝珠に錫杖、像容の衲衣表現は僧形、体躯(たいく)のまとまり、足首の彫りだしなどの表現が稚拙ですが、この石仏には銘文があります。右側に「奉造立」、左側に「寛正五(1464)年四月日道□」とあり、室町時代中期となります。6体の地蔵菩薩の造作に似ており、おそらく同じ石工の手になり、室町時代中期の様式を伝えていると考えられます。(地域歴史民俗考古研究所所長 辻尾榮市)

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