火力発電に使う燃料費の高騰などを受け、関西、九州、中部を除く大手電力7社が、家庭向け電気料金(規制料金)を6月1日から値上げする。標準家庭でみると首都圏と関西、九州の差は月額約2500円に広がり、地域格差が顕著になる。消費者が高い自由料金から安い規制料金に切り替える傾向が続いており、原子力発電所の稼働で燃料費を抑制できる関電などの優位性が際立っている。
「規制料金」は平成28年の電力小売り全面自由化の前から大手電力が提供しており、値上げには国の認可が必要。各社が独自に設定できる「自由料金」には上限がないため、規制料金が消費者を守るために経過措置として残されている。
値上げにより、各社が示す標準的な家庭(月の電気使用量230~260キロワット時)の6月の規制料金は格差が拡大する。東京電力ホールディングスと関電の差は5月の1573円から6月には2454円に、九電との差は1555円から2439円に広がる。原因は原発の稼働状況の違いだ。
平成23年の東日本大震災以降の相次ぐ原発停止で、日本の発電電力量(令和3年度)は約73%を火力が占め、原子力は約7%にとどまる。ロシアによるウクライナ侵攻などで原油や液化天然ガス(LNG)が高騰。火力発電コストは昨年、急上昇した。
その結果、電力市場では卸価格が高騰し、自由料金が高止まり。規制料金は、燃料費の変動を料金に反映させる「燃料費調整単価」が各社とも上限に達した。東電など原発が止まったままの電力各社は赤字に堪え切れず、規制料金の値上げに踏み切った。
原発稼働の有無は電力会社の経営に直結する。関電の5年3月期の実績によると、1基動くことによる経常増益は大飯原発(福井県おおい町)で月120億円、美浜原発(同県美浜町)と高浜原発(同県高浜町)で月85億円に上る。
関電は現在、原発5基を稼働し、九電も玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)、川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)を稼働中だ。
5年3月期連結決算で8期ぶりの経常赤字に転落した関電は、6年3月期は一転して過去最高益を予想する。今夏に高浜1、2号機の再稼働を予定するなど、廃炉を決めたものを除く7基の全稼働を見込み、LNG価格も昨年秋から下落に転じているためだ。
関電の森望(のぞむ)社長は値上げについて「経営環境や収支の動向、経営効率化の進捗(しんちょく)を慎重に見極める」と述べるものの、電力カルテルや新電力の顧客情報の不正閲覧という不祥事で批判を浴びており、値上げできる環境ではなくなっている。
「安い規制料金」に苦々しい思いでいるのは関西の新電力だ。自由料金が規制料金より高い逆転現象が続いており、新規契約を中止し、撤退を余儀なくされる新電力も続出している。
新電力と連携して電気料金の削減を提案する日本電気保安協会(大阪市)の平井一二三(ひふみ)社長は「関西は〝関電一強〟で消費者が選べなくなっている。これで自由化といえるのか。原発の電気を市場にもっと供給するなど、競争を働かせる取り組みが必要だ」と指摘する。(牛島要平)