フナと育つ長野・佐久のコメ 伝統食「甘露煮」と一緒に味わう

水田養殖用の親ブナを計量する担当者=長野県佐久市の県水産試験場佐久支場(原田成樹撮影)
水田養殖用の親ブナを計量する担当者=長野県佐久市の県水産試験場佐久支場(原田成樹撮影)

長野県佐久地方に伝わるフナの水田養殖向けに、親ブナの出荷が5月中旬に県水産試験場佐久支場(佐久市)で行われた。フナ養殖は、昭和40年頃からコメ農家の副業として行われてきた。地元スーパーによるとかつては収穫期の9月頃には大量のコブナを店頭で扱ったが、水田の後継者不足などに伴って減少傾向にある。今となっては貴重な「フナ米(まい)」と伝統食のコブナの甘露煮を一緒に食べてみた。

害虫を食べる

アイガモ、エビなど水田を畜産、養殖にも活用する例は国内やアジアなどでみられる。佐久地方では、史料に残る江戸時代から水田でコイを養殖。害虫や雑草などを食べてくれ、しかも海から遠い地域では貴重な大型鮮魚も手に入る。かつては、各農家にひと夏がんばったコイを越冬させる池があったという。

一方、フナの養殖は昭和40年頃から。5~6月、親ブナに卵を産ませ、収穫期に体長5センチほどに成長したコブナを食べる。コイだと水深を深くする必要があるが、フナの場合は浅めでよく、扱いやすいことが佐久地方で導入された背景にあったようだ。

水産試が出荷するフナは骨を軟らかく品質改良し、食用に適したものになっているという。今年の親ブナ出荷日は、水産試が育成した親ブナ計約830キロが、JAを通じて購入した約60軒の農家らに配布された。

低農薬の付加価値

副収入が得られることに加え、コメもフナが育つほどの低農薬環境で栽培された証明がある「フナ米」として、付加価値がつく。水産試によると、一般の田んぼで真夏に、根っこの強化などのために行う「中干(なかぼ)し」ができないため、多少収穫量は落ちるものの、それを上回るメリットが期待できるという。

川魚を砂糖やしょうゆなどで煮た「甘露煮」は佐久地方の郷土の味覚の一つ。ただ、水産試によると、かつてはコブナをたくさん生産して外販する農家も多かったが、近年は後継者不足で技術継承も難しいため収穫は減る傾向にあるという。

確かな歯応え

味はどうか。収穫シーズンでないため、地元・佐久産には出合えなかったが、長野市で加工された国産コブナの甘露煮を入手。味は甘じょっぱく、ソフトクラブシェルのような軟らかいけれど確かな骨格の歯応えを味わえた。川魚特有の苦味も大人の味だ。

ほどよい歯応えのコブナ甘露煮。白飯にもすっきり系の日本酒にも合う(原田成樹撮影)
ほどよい歯応えのコブナ甘露煮。白飯にもすっきり系の日本酒にも合う(原田成樹撮影)

購入したフナ米の品種はコシヒカリ。夜間は冷涼で糖質を消費しにくい標高650メートルで育ったコメは甘味も、粘りもしっかり。砂糖じょうゆと白米はそもそも黄金コンビだが、晴天率が全国トップクラスの佐久地方の太陽と千曲川上流の清水でともに育った名コンビが口の中で再会した。

さらに、このコシヒカリで醸造した日本酒「ふなの郷」(黒澤酒造)も地元スーパーの「ツルヤ」で入手した。一般に酒米として適さないとされるコシヒカリなので日本酒としての出来については半信半疑だったが、辛口ですっきりと飲みやすい。フルーティーな香りもある。甘露煮でちょっとべたついた口をきれいに洗い流してくれた。

自然の恵みを感じさせるフナ米のパッケージ(左)とフナ米で造った黒澤酒造の清酒「ふなの郷(さと)」(原田成樹撮影)
自然の恵みを感じさせるフナ米のパッケージ(左)とフナ米で造った黒澤酒造の清酒「ふなの郷(さと)」(原田成樹撮影)

親ブナを購入する農家もコブナは自家消費用だったり、ペット代わりだったりが多くなったという。産卵のさせ方や飼育、鮮度を落とさない収穫などに技術や人手が必要で収穫率も低下傾向。さらに地球温暖化によって気温が上昇すれば、浅い田んぼでの養殖はますます難しくなる。佐久市では技術研修会なども開催されているほか、最近は、インターネットで知った山梨、群馬など他県からの新規購入者も現れており、伝統の存続に望みが託されている。(原田成樹)

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