一筆多論

顧みられぬ病の薬を求めて 佐藤好美

完成した1錠の薬が輝いているように見えた。

ツェツェバエが媒介する疾患で、昏(こん)睡(すい)から死に至る「アフリカ睡眠病」の初の飲み薬「フェキシニダゾール」だ。欧州医薬品庁が2018年に承認し、アフリカでの使用を推奨した。

その開発を追った動画が先進7カ国(G7)保健相会合を記念する国際シンポジウムで放映された。胸打たれる内容だった。

この薬を開発したのは製薬会社ではない。国際的な非営利組織「顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ」(DNDi)だ。

世界の基金などから資金を集め、途上国で臨床試験(治験)を行い、候補となる薬の効果と安全性を確かめる。国際的緊急医療団体「国境なき医師団」がノーベル平和賞の賞金を元に他機関と共同で立ち上げた。

対象となる疾患は、アフリカ睡眠病のほか、デング熱やフィラリア症など。世界保健機関(WHO)が「顧みられない熱帯病」と称する疾患である。

途上国の奥地に多い疾患は、製薬会社にとって治験が困難だ。可能性がありそうな成分の候補があっても、新薬開発はなかなか進まない。

DNDiのロホン・フレス研究開発ディレクターは、「私たちの役割は、顧みられない病気や感染症の影響を受けて、医療から取り残された人々のために、新しい治療薬、治療法を開発することだ」と言う。

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