人口減少時代の持続可能な地域づくりを考えるイベントが26、27両日、京都市北西部の山あいにある旧小学校舎で開かれ、延べ約180人が参加した。さまざまなプログラムが組まれる中、日本の活性化を目指す企業人ら有志のグループ「JVP構想実現会議」は、地域のファンである「関係人口」を増やすための方策を計約4時間半にわたり議論した。
「28万人」を動かせ
イベントはNPO法人「ETIC.(エティック)」(東京)が事務局を務める「ビヨンドカンファレンス2023 舞台に上がって、ええじゃないか!」。企業などの肩書を外して社会課題の解決を目指し協働する仲間づくりの場で、昨年4月の鎌倉・建長寺に続き2回目の開催。
JVPは「ジャパン・バイタリゼーション・プラットフォーム」の頭文字で、都市と地方の人流、物流を生みだすことで日本を活性化しようという運動。産直アプリ「ポケットマルシェ」の運営会社「雨風太陽」(岩手)の高橋博之代表(48)と、日本航空の松崎志朗さん(37)が共同発起人を務め、企業人や官僚、学生ら約90人が個人で参加している。
初日の議論では、「越境を進める企業制度と文化」をテーマに、三菱総研の松田智生主席研究員(56)が関係人口を飛躍的に増やす、「けたを上げる」ための方策として「東京都心の大手町・丸の内・有楽町の就労人口28万人、ひいては首都圏と近畿圏の大企業の従業員1千万人、つまりマスボリュームをどうやって動かすかが鍵を握る」と問題提起。
松田さんは、都市部の会社員が一定期間、地方で働く「逆参勤交代」構想を提唱しており、「マスを動かすためには税制による政策誘導など国の制度化が欠かせない。私は『逆参勤交代』が首相の所信表明演説で取り上げられるまで続ける」と語った。
ボラ休暇を活用
2日目の午前は、議論を深めるため「関係人口」の定義を再確認。総務省は関係人口について「観光に来た『交流人口』でもなく、移住した『定住人口』でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のこと」と定義している。
高橋さんは都市と地方の人々の関係性を「友達以上、恋人未満」と表現。それを受けた松田さんが「ほどよい距離感が大事で、『別居以上、離婚未満』と説明すると、中高年の方々は分かってくれる」と解説した。JR西日本の山内菜都海さん(40)は「地域のほうからも両思いの、ほどよい距離感かな」とつけ加えた。
その後、前日の問題提起を受けて「東京駅周辺の『28万人』はどうすれば『関係人口』になるか」をテーマに、約30人の参加者が5つのグループに分かれて議論。「ふつうの会社員」が関係人口になるためのアイデアを話し合った。
大手町の三井物産で働く「28万人」の一人、高取英樹さん(47)は「ボランティア休暇を活用してはどうか」と提案した。ボランティア休暇制度は、会社が任意に就業規則で定める法定外休暇の一つ。厚生労働省の昨年度調査によると、導入企業は従業員1千人以上の大企業でも約23%にとどまるものの、国は企業イメージの向上や人材育成につながるとして導入を促している。
三菱総研の松田さんは「新しい制度を作るのは波風を立てがち。既存の制度を活用するのはよい解決策だ」と応じた。
都内の大手IT企業に勤め、今春から総務省の企業人材派遣制度「地域活性化起業人」制度を利用して、新潟県長岡市へ地域コーディネーターとして出向している藤田さやかさん(34)は「会社内で副業のハードルが高い。私が長岡で『来てもらってよかった』と言ってもらえるような活動をして、会社を変えていきたい」と宣言。
藤田さんが課題の解決策として「だから、ソリューションは、私です」と言い切ると、会場から「ええじゃないか!」の声が飛んだ。
住民票の取り合い
東北地方の町役場から都内の大手企業へ出向中という女性社員は「国から地方へのお金の配分は人口が基準。このためどの自治体も『定住人口を増やせ』と、住民票の取り合いになっている」と実情を話した。
雨風太陽の高橋さんは「都市住民が『二地域居住』先の自治体へ住民税を分散納税できるような仕組みづくりが必要だ」と指摘した。
また、二地域居住、多拠点生活を進める不動産情報会社「LIFULL(ライフル)」(東京)の北辻巧多郎さん(34)は「朝ドラで、丸の内で働いている小栗旬が地方と関わる話をやってもらえれば、ぐっと普及すると思う」と提案。佐賀市の薬局経営、溝上泰興さん(42)は「それなら『孤独のグルメ』のように、毎回いろいろな地方へ逆参勤交代する話はどうか」と続けた。
2日目の午後は、今年4月に全国で初めて自治体としてNFT(非代替性トークン)による「デジタル住民票」を発行した山形県西川町の菅野大志町長(44)と、国内外でNFTなど最先端の情報技術を使った地域づくりへ関わる「奇兵隊」(東京)の阿部遼介代表(41)が登壇。デジタル住民票による関係人口づくりの可能性を語り合った。
議論の続きは毎週水曜、JVPのオンライン上の集まりで行われ、国に対し政策提言していくという。
JVPは参加者を募っている。詳しくは公式サイト。