セ・リーグの首位を快調に走る阪神。昨季までチーム失策数が5年連続でリーグワーストを記録したが、今季はそんなイメージが払拭されている。中でも中野拓夢と木浪聖也の二遊間コンビが好プレーで魅了。オールスター戦のファン投票でも二塁手部門と遊撃手部門でトップの票を集めている2人には、守備の名手に贈られる「ゴールデングラブ賞」の期待が早くも高まっている。岡田彰布監督が昨年秋の就任以来、掲げてきた「守りの野球」を体現する存在だ。(嶋田知加子)
好プレーで魅了
開幕から阪神の二遊間コンビのプレーは随所で光っていた。中野は5月2日の中日戦(甲子園)で再三の美技を披露した。五回、大島洋平の打球が先発青柳晃洋の足にあたり、方向が変わるとすぐさま反応して前へ。素手でつかみ、そのまま一塁へ送球しアウトにした。続くアルモンテの二遊間への痛烈なゴロは横っ跳びで好捕。岡田監督は「(中野の好守備は)ずっとやん、それは。開幕から」とたたえた。
木浪は25日のヤクルト戦(神宮)で1点ビハインドの六回1死一、二塁で塩見泰隆のゴロをダイビングキャッチ。二塁へ素早くトスして遊ゴロに仕留めて追加点を阻止し、チームの逆転劇につなげた。開幕からバットでアピールし、8番打者として上位打線へつなぐ大きな役割を担っているが、守備の安定感も試合ごとに増している。
昨季はチーム失策数が86個を数え、5年連続でリーグワーストをマーク。リーグ屈指の投手力を誇りながら、チームにとっては大きな弱点になっていた。二遊間のテコ入れは18年ぶりの頂点を狙う岡田阪神の改革の目玉だった。
中野は入団から2年連続で遊撃を守り、昨季は遊撃手としてベストナインにも選ばれたが、ショートとしては肩が弱いことを懸念した指揮官の方針で二塁へコンバートされた。一方、遊撃のポジションは春季キャンプから木浪と5年目の小幡竜平が争ってきた。開幕当初は守備力の高い小幡が先発出場したが、木浪は初先発した4月8日以降は遊撃の定位置を守っている。
開幕から5月上旬まで中野、木浪の二遊間コンビは無失策を続けた。30試合をすぎてから少しエラーも出てきたが、28日現在で中野は4個、木浪は2個。チーム失策数26個はリーグの中では中日に次いで2番目に多い数字で、一足飛びに守備力が改善されるわけではないが、失点につながっていない点でも、二遊間の安定がチームを支えているといえるだろう。
「守って、打って」
中野の守備について、藤本敦士内野守備走塁コーチは「ショートよりセカンドの方が(一塁ベースまでの送球距離が短く)余裕が出てくる。待って処理ができる部分も、一歩下がって処理できる部分もある。そんなに慌てなくてもいい」と説明した上で、足の使い方の重要性を指摘している。
二塁転向で小手先に頼ってしまうことも起こりうるが、「足を使ってしっかりと投げる、足を使ってしっかりと取りに行く」ことができていると解説。足の使い方については、3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場した際、守備の名手である西武の源田壮亮からも教えを受け、胸に刻み込んでいる部分だ。
一方の木浪もまずは守備へのこだわりを強調している。プロ初のサヨナラ打を放った5月3日の中日戦(甲子園)のヒーローインタビューでは「守って、打って、絶対に勝ちます」と誓った。この発言にうなったのはOBの掛布雅之さん。民放のテレビ番組で、木浪が最初に「守って」と発言したことに「成長を感じた」と絶賛した。木浪も「守りが一番というのはずっと思っていること。それしか考えていない」と言い切った。
岡田監督はシーズン前から「阪神から複数のゴールデングラブ賞に選ばれる選手が出ると思う」と明言していた。阪神の二遊間コンビがそろってゴールデングラブ賞を受賞したのは、2011年の平野恵一と鳥谷敬を最後にない。二塁手では昨季まで10年連続で受賞を続けている広島の菊池涼介が大きな壁として立ちはだかるが、目標が大きいほど目的意識も高くなっていくだろう。
藤本コーチは「ナカキナ」の二遊間コンビについて「チームの投手の特徴や相手打者の特徴、打者の調子の良しあしで打球の予測ができている」とし、「試合に出続けることで感覚もどんどん研ぎ澄まされ、一つのファウル、一つの見送り、一つの空振りで、次の一歩目が変わってくる。2人でコミュニケーションを取りながらやっている」とうなずく。失策数リーグワーストからの脱却に向けたキーマンの2人であるとともに、18年ぶりの優勝奪還へ欠かせないコンビになりつつある。