採用3倍、給与アップ 積水ハウスが大工を自前育成、囲い込み

大工の採用強化策を発表した積水ハウスの大村泰志常務執行役員(中央)と、「クラフター」用のユニフォームを身に着けた積水ハウス建設の若手社員ら=29日、大阪市内(黒川信雄撮影)
大工の採用強化策を発表した積水ハウスの大村泰志常務執行役員(中央)と、「クラフター」用のユニフォームを身に着けた積水ハウス建設の若手社員ら=29日、大阪市内(黒川信雄撮影)

積水ハウスは29日、大工の採用人数を今後2年間で3倍超に増やす方針を発表した。今年4月に初任給を引き上げたほか、今後、中堅の責任者に対しても年収を最大1・8倍にする。少子化に加え、令和6年度から建設業でも時間外労働の規制が強化されるのに伴い、業界では人手不足が懸念されるためで、自社に所属する若手大工を増やし、待遇も改善することで、住宅供給を安定的に行う狙いがある。

積水ハウスのグループ会社、積水ハウス建設では5年4月に高卒など39人の技能工が入社したが、6年4月は95人、7年4月は133人の採用を目指す。同社には現在、技能工が376人いる。

給与面でも、5年4月入社の新入社員の初任給を引き上げ、年収は前年比で最大11%(約17万9千円)増やした。責任者の給与も大幅に引き上げ、これまで30代で500~600万円程度だった年収を、6年4月からの年収で、最大1・8倍の約900万円にして、待遇を大幅改善する。

新卒採用強化は特に高卒を対象に実施される。今後、学校に対する説明などの働きかけを強化する。さらに完全週休2日制、男性育休取得率100%などを徹底し、社内での大工の呼び名を「クラフター」などと親しみやすい名称に変更するなど、若い人材が働きやすい環境を整備する。

積水ハウス建設が若い技能工の採用を大幅に強化する背景には、建設業界での人材難が今後一層深刻化するとの懸念がある。建設業従事者は減少が続く一方、高齢化が進む。一方で新設住宅の着工件数は4年時点で年間約85万戸と底堅く推移しており「いずれ、供給が支えられなくなる」(積水ハウス関係者)懸念がある。

一方、住宅建設に携わる大工の大半は大手住宅メーカーの下請け企業に所属し、積水ハウス建設でも自社物件の建設作業に携わる自社の大工の割合は「数%にとどまる」(同)。今後、中小零細の建設事業者は、人手不足がさらに深刻化するとみられ、自社で大工を育成し、待遇も引き上げることで人材を確保する狙いがある。

住宅メーカーでは、「自社や傘下企業で大工を直接雇用するケースはほとんどない」(大手住宅メーカー)とされる。そのため、すでにメーカー間で「下請け企業の獲得競争が起きている」(同)とも指摘されている。積水ハウス建設の動きは、自社で人材を確保することで、そのような競争に巻き込まれない狙いもあるといえそうだ。(黒川信雄)

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