伊藤健太郎が令和版「静かなるドン」に主演 「ここからもう一度」の決意

新しいチャレンジを続ける伊藤健太郎(石井健撮影)
新しいチャレンジを続ける伊藤健太郎(石井健撮影)

伊藤健太郎(25)の主演映画「静かなるドン」(山口健人監督)前編と後編が6月5~8日に東京と大阪の映画館で一挙に上映される。合わせて約4時間半の長尺だが、同1日からは8話に分けた有料配信も始まる。

「静かなるドン」は、昭和~平成の人気任俠(にんきょう)漫画が原作。数々のVシネマ、任侠映画に出演する本宮泰風(やすかぜ)(51)が、総合プロデューサーとして令和の時代によみがえらせた。

主人公の近藤静也(しずや)はサラリーマンだが、抗争をなくすため不本意ながらも父親の跡目をついで暴力団、新鮮組の総長となる。

静也を演じる伊藤がいう。

「山口監督から『令和らしくスタイリッシュな作品にしたい。幅広い世代の方に見てほしい』という意欲をうかがい、挑戦したことのないジャンルでもあり、ぜひ、やらせていただきたいと思いました」

すでにこれまでドラマ、映画化され、中山秀征(ひでゆき=55)や香川照之(57)が静也を演じてきたが、山口監督は脚本も自ら手掛け、原作漫画とはまた別の、まさに伊藤ならではの令和版静也を生み出した。

映画「静かなるドン」©2023「静かなるドン」製作委員会
映画「静かなるドン」©2023「静かなるドン」製作委員会

昼間はデザイン会社で働く、線が細い〝草食系〟の青年だが、夜はスーツにサングラス姿。巨大組織を率いる最強の総長に変身する。

「任侠の世界がいいかは別ですが、『任侠もの』の、古いしきたりを守るという部分は、日本人にとって大事な要素でもあるのかなと撮影しながら考えました」

令和の任侠映画には、時代劇に通じる部分もあるのかもしれない。

危険にさらされた会社の同僚で憧れの女性でもある秋野明美(筧美和子)を助ける静也。秋野は、サングラスの男が仕事仲間の静也だとは気づかない。

それほどの落差をどう出すか。伊藤は「昼の静也をどれだけはじけさせることができるかで、夜の静也との違いが出せる」と考え、踊りながら出社するなど昼の静也の軽やかさを全力で演じた。

映画「静かなるドン」©2023「静かなるドン」製作委員会
映画「静かなるドン」©2023「静かなるドン」製作委員会

伊藤の中には、その二面性がドラマ、映画で大ヒットした「今日から俺は!!」の伊藤真司役に似てしまわないかという懸念もあった。

実際、「『伊藤(真司)っぽいな』と思うところがちょこちょこ出てしまい、そこは反省」と振り返る。

裏を返せば静也は、伊藤がこれまでに演じたさまざまな役のエッセンスが凝縮されたキャラクターになったともいえる。

例えば、寺島進(59)が演じる敵対する組長を相手に激しく刀を交えるが、殺陣はNHKの時代劇ドラマ「アシガール」で初めて経験して以来、練習し続けて、ここに生きた。

映画「静かなるドン」©2023「静かなるドン」製作委員会
映画「静かなるドン」©2023「静かなるドン」製作委員会

一方で、やくざの役は初めて。夜中にサングラスをかけてアクションシーンを撮るのは緊張の連続だった。周囲が見えず、気を抜けば自分か相手が、けがをする恐れがあったからだ。

「これまで自分に求めていただく役は、好青年、王子さまのようなキャラクターが多かった。新しい道にチャレンジできるという意味で、この作品はいまの僕にとってベストの選択なんじゃないかな」

新しい道-。人気絶頂だった令和2年10月28日、東京都内で交通事故を起こし、そのまま立ち去ったとして逮捕された。不起訴になり、3年10月28日に幕を開けた演劇舞台で活動を再開した。昨年は、復帰後初の主演映画「冬薔薇(ふゆそうび)」(阪本順治監督)も公開された。

休んでいる間、後輩たちが活躍するのを見て、思わずテレビを消したこともあったという。

「自分が、芝居のほかにやりたいことは何だろうって考えました。好きなことはたくさんあるけど、仕事にするのだとしたら芝居以外の選択肢はありませんでした」

役者をやめようとは考えなかった。だが、自分でやりたいと願っただけでできる仕事ではない。「役者として僕を求めてくださる方々がいた。本当にありがたいことです」と周囲への感謝を忘れない。

「静かなるドン」はエンターテインメントに徹し、山口監督や総合プロデューサーの本宮が目指した通り、スタイリッシュで明朗なアクション作品になっている。

「フラットにいろんな世代の方に楽しんでもらえる映画。ここから、もう一度始めるんだという思いがあります」と話す。

当面、目指すのは「説得力のある俳優」だという。

「いまの僕って、多分、さまざまな作品に出ようとしても、まだ〝邪魔な存在〟なのだと思う」

1年休んだ事実が、無色透明で役になりきることを難しくしていると認識している。

伊藤健太郎(石井健撮影)
伊藤健太郎(石井健撮影)

芝居で精進していくほかにない。

「自分の芝居の力で邪魔って思わせる部分を、どんどん、どんどん、削って、削って、削っていける、説得力のある俳優にならなければいけない。でなければ、多分、この先は続けていけないでしょう」と改めて決意を語った。

「静かなるドン」前編(1時間58分)、後編(2時間29分)は、どちらも6月5~8日、東京・新宿バルト9と大阪・T・ジョイ梅田で同時公開。また、DMM TVで前後編を8話に分け、6月1日から毎週木曜日に順次有料配信する。本宮、筧のほか深水元基、三宅弘城、筒井真理子らが共演。

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