健康寿命最前線

寿命延伸の秘訣 都道府県別1位の大分が突出する指標

2025(令和7)年4月、「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに「2025年大阪・関西万博」が開幕する。「いのち」や「健康」をキーワードに、たとえば地元館「大阪ヘルスケアパビリオン」では、最先端の医療・健康技術が提示される予定だ。ただ生き永らえるのではなく、年老いても自分らしく生き生きと過ごす、つまり「健康寿命」を延ばすことは人類の夢である。そのための秘訣(ひけつ)とは何だろうか。

生存期間の平均値を示す「平均寿命」に対し、介護を必要とせず、日常生活に制限のない期間を示すのが「健康寿命」だ。厚生労働省によると、令和元年の全国平均は男性が72・68歳、女性が75・38歳で、世界保健機関(WHO)が発表した国別ランキングで、平均寿命とともに1位を記録している。

ただ、気がかりなのは、平均寿命と健康寿命の差である「不健康な期間」が男性が約9年、女性が約12年と長期にわたることだ。この期間をなるべく少なくし、健康寿命を延ばすにはどうすればよいのか。

都道府県別ランキング上位の自治体の取り組みがヒントになりそうだ。男性では、前回平成28年のランキングで36位だった大分県が令和元年、初の1位を獲得。担当者がポイントとして挙げたのは、塩分や野菜、運動など生活習慣のちょっとした改善だ。

地域の高齢者らが集まり、体操に取り組む大分県の「通いの場」(由布院サロン提供)
地域の高齢者らが集まり、体操に取り組む大分県の「通いの場」(由布院サロン提供)

同県では、高齢者が身近な場で体操や交流を楽しむ「通いの場」への支援にも力を入れている。3年度の参加率は14・7%(全国平均5・5%)で、統計を始めた平成25年以降、9年連続で全国1位だった。

また、高齢者だけでなく働き盛りの現役世代向けにも取り組みを拡充。健康診断の受診率向上や受動喫煙対策など5つの基準を満たした企業を認定する取り組みのほか、県独自の歩数計アプリを開発し、職場対抗で競わせるイベントを開催したり、減塩や野菜を摂取できるメニューのレシピを県のホームページで紹介したりしている。

一方、令和元年に女性1位となった三重県は、生活習慣病の予防のための特定検診の定期的な受診や「心の健康づくり」などもポイントとして挙げた。担当者は「『勝手に健康になっていく』ような社会環境づくりを目指す」と語った。

下位の自治体もさまざまな施策を進めてはいる。男性最下位となった岩手県では平均寿命の水準も低く、担当者は「地道に生活習慣病予防などに取り組む」。女性最下位の京都府の担当者は「いかに健康に無関心な人を巻き込めるかがポイントだ」と分析した。

青山学院大大学院・社会情報学研究科(公衆衛生学)の佐藤敏彦特任教授は「健康寿命の延伸には、従来いわれてきた食事、睡眠、運動などに加え、地域やコミュニティーにおける人々の信頼関係や絆を示す『ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)』が大きく影響する」という。

具体的には、大分県が力を入れる「通いの場」のように、退職した後も趣味や目標、生きがいや仲間を見つけることが活力につながり、コミュニティーの参加率の高さが健康寿命に大きく起因するとした。

一方、新たな課題も生まれている。佐藤氏は「日本はこれまで他国と比較して地域や収入によって健康状態に差が少ないのが特徴だった。しかし、新型コロナウイルス禍をきっかけに孤立化が進み、運動する人としない人など、健康面での取り組みが両極化した」と指摘。個人の生活スタイルによる格差が今後さらに顕著に広がる可能性があるといい、「一人きりにさせない社会環境づくりが求められる」と話した。(木下未希)

開幕まで2年を切った2025年大阪・関西万博。毎月1回、万博の重要テーマである健康寿命に関連した特集記事を掲載します。


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