ベンチャー探訪

胃がんの早期発見にAI活用 AIメディカルサービス

AIメディカルの多田智裕代表取締役CEO
AIメディカルの多田智裕代表取締役CEO

昭和56年以来、日本人の死因で第1位になっている「がん」。命を救うには早期発見が欠かせないが、そのために人工知能(AI)を活用しようと技術開発を進めているのがAIメディカルサービス(AIM、東京都豊島区)だ。既存の内視鏡に接続することで早期発見を支援するAIソフトを開発しており、発見率は専門医を上回るとの結果も得ている。

内視鏡AIは大手も手掛けているが、AIMがターゲットに置いているのが胃がんの早期発見だ。

胃がんを早期発見するには内視鏡検査しかないとされるが、大腸、食道など消化器がんのなかでも特に早期発見が難しく、専門医でも見逃すことがあるという。胃がんはステージ1の段階で早期発見できれば95%以上が完治できる一方で、ステージ3の5年生存率は50%を切るとされ、多田智裕代表取締役CEO(最高経営責任者)は「胃がんの早期発見は命を救うことに等しい」と話す。

多田氏は2万件を超える内視鏡検査の臨床経験を持ち、自らクリニックを経営する医師でもある。その多田氏がAIを内視鏡検査に活用することを思い立ったのは平成28年のこと。講演で「AIが画像認識能力で人間を超えた」と聞いたことがきっかけだったという。翌年9月にAIMを設立、研究を開始した。

AIの能力を向上するには「質の高いデータをどれだけ覚えさせられるかがすべて」(多田氏)という。このため、AIMはがん研有明病院や東大病院など100カ所以上の国内医療機関と提携。20万本を超える内視鏡検査の画像、動画の提供を受け、AIに読み込ませた。AIと内視鏡の専門医で早期胃がんの発見率を検証した結果、内視鏡医の発見率が37・2%だったのに対し、AIは58・4%と専門医を上回る結果を残すまでになっている。

AIが学習した早期胃がんの画像にどの程度似ているかを数値で表し、医師によるがんの診断を支援する(AIメディカルサービス提供)
AIが学習した早期胃がんの画像にどの程度似ているかを数値で表し、医師によるがんの診断を支援する(AIメディカルサービス提供)

AIMは開発した内視鏡AIソフトについて、令和3年8月に薬事承認を申請、現在はその結果を待っている段階にある。承認を取得した後、AIソフトを広く活用してもらうために、2つの仕組みを導入することを考えている。

まず内視鏡に組み込むのではなく、既存の内視鏡に後付けで導入できるようにする。AIソフトは市販のパソコンで使用でき、パソコンと内視鏡を接続することで、内視鏡医がAIのサポートを受けながら診断できる。

一方、販売は売りきりではなく、サブスクリプション(定額制)とする。医療機関から毎月定額の利用料を受け取る形にすることで導入の初期費用を抑えられるうえ、精度を向上した最新のAIソフトを利用してもらうことも可能になる。

AIMはシンガポールでも薬事承認を申請しているほか、10カ国・地域以上の医療機関と共同研究契約を締結したり、交渉を行ったりしている。「日本の内視鏡技術を展開できれば、全世界に貢献できると確信している」。多田氏の思いは海外にも広がろうとしている。(高橋俊一)


AIメディカルサービス 内視鏡医である多田智裕氏が、胃がんの早期発見を支援するAIソフトを開発するために設立。薬事承認を得ていないため、販売できる商品はまだないが、ソフトバンクグループ傘下の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド2」などから累計約145億円の資金を調達しており、将来性が評価されている。社員数は66人。

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