東京都墨田区の商店街を盛り上げるために活動しているアイドルグループがある。「約20年前に活動したアイドルが再結成した」という設定の7人組グループ「帰ってきたキューピッドガールズ」は、メンバーの平均年齢が41・3歳。10年以上にわたり、街の活性化に大きく貢献してきた。リーダーの奥山静香さん(44)は、「愛情を持っていれば、相手にも思ってもらえる」と力を込める。
毎週、ライブと「お買い物ツアー」
グループの活動の舞台は、墨田区京島にある「下町人情キラキラ橘商店街」。毎週土曜日か日曜日に商店街でライブを行い、ライブ終了後は、来場者とともに商店街のお買い物ツアーを行っている。
7人のメンバーはそれぞれ商店街にちなんだ名前を持っており、グループ活動時の奥山さんの名前は「オクヤマ化粧品店」。ほかに、「水沢豆腐店」「アイス市場」「河野クリーニング」「鳥の谷口」「和菓子のもくだ堂」「酒井鮮魚店」がいる。
一風変わったグループ名とメンバー名には理由がある。
商店街に生まれ育った看板娘たちがメンバーとなって約20年前、瞬間的に活動した「キューピッドガールズ」というアイドルグループがあり、スカイツリー開業にあたり、商店街をもっと元気にしたいと活動を再開した―。これがグループの設定だ。
「これは芝居なんだ」と説得
結成当初のメンバーは、「シアターキューブリック」という劇団に所属する劇団員。奥山さんは今も劇団の一員として活動しており、アイドル活動をしていた過去はない。「帰ってきたキューピッドガールズは、商店街を舞台に活動するお芝居なんです」。奥山さんは、こう種明かしをする。メンバーに商店街にちなんだ名前が付けられたのも、商店街に近い人物の方が親しみが湧くという理由からだという。
同劇団はこれまで、通常の舞台の傍ら、ローカル鉄道で芝居を行うなど町おこしの活動にも取り組んできた。今回の活動のきっかけは、劇団の代表が墨田区出身という縁もあり、キラキラ橘商店街の事務局長が「『墨田区商店街活性化に関する条例』の加入促進大会でお芝居をやってほしい」と依頼してきたこと。これを受け、平成22年に商店街を脅かす悪と戦うアイドルの芝居を実施したところ、好評だったため、事務局長から「商店街を好きに使っていいから実際にアイドル活動をしてみないか」と、さらなる提案を受けたという。
当時、メンバーの平均年齢は約30歳。奥山さんも含め、メンバーは〝アイドル活動〟に積極的ではなかったが、代表は「これは芝居なんだ」と説得してきた。奥山さんは「芝居ならできるかもしれないと思った」と振り返る。
最初は色物…コロナ乗り越えファン拡大
グループが始動したのは平成23年冬。最初は色物扱いだったという。しかし、商店街のイベントを手伝うなどするうちに、「商店街のために活動していると理解してもらえた」と奥山さん。今では、イベントの企画運営やお買い物ツアーで売り上げに貢献するなど「頼りにしてもらうことが増えた」と手ごたえをにじませる。
長い活動の中で奥山さんが大事にしてきたのは、商店街を思う心だ。
「私たちは商店街が身近にあった最後の世代。キラキラ橘商店街にはずっと残ってほしいと思っている」
新型コロナウイルスの影響でライブをできない時期は、オンライン配信を行って苦境を乗り越えてきた。配信を見てファンになり、九州から訪れた人もいる。広がりをみせるグループの夢は、両国国技館デビューだ。奥山さんは「商店街を元気に盛り上げて、活動も続けていきたい」と意気込んだ。(深津響)