会費を出して水田(米)のオーナーになり、とれた米をもらうオーナー制度。ブランド米コシヒカリの産地として知られる新潟県魚沼地方の米生産販売会社と旅行サービス会社が、台湾からの田植えツアーを企画し、オーナーを募ったところ、17人の台湾人オーナーが誕生した。日本人を対象とせず、台湾に照準を絞ってオーナーを募る取り組みは全国的にも珍しいとみられる。その狙いは-。
5月21日、台湾から羽田空港を経由し、バスで新潟県魚沼市に入ったツアー参加者21人は長ぐつ姿でコシヒカリの苗を植えた。水田の広さは約500平方メートル。名峰の八海山などを望む風光明媚(めいび)な場所にある。
参加者の一人、台北市内で企画会社を経営する鄭淑娥(テイ・シュクガ)さん(52)は「水がきれいだし、米もおいしい。田舎を体験できるツアーはとてもおもしろい」と喜んだ。
鄭さんを含めた17人が1口=約9千台湾元(約4万円)の年会費を払い、オーナーになった。今秋の収穫後、1口当たり10キログラムの魚沼産コシヒカリが台湾の自宅に届けられる。
贈答文化に着目
田植え体験をしながら、魚沼地方などを4泊5日で巡るツアー。オーナーになるための会費などを含む費用は1人当たり30万円ほど。参加者は経営者など富裕層が中心だという。
今回が初めてとなるこのツアーは、旅行サービス会社「ライメックス十日町」(十日町市)と魚沼産コシヒカリの生産販売会社「越里(えつり)」(魚沼市)が、台湾の旅行会社「瑞獅(ズイシ)旅行」(台北市)に企画を持ち込み実現した。
越里の阿部薫社長(34)は、台湾に照準を絞った理由について「台湾の富裕層が持つ独自の贈答文化に目を付けた」と話す。台湾では希少なものを人に贈ることがステータスになっている。日本を代表するブランド米を作る水田のオーナーになり、収穫した米を知人に贈ることが台湾の富裕層に受けるとみている。
今秋には台湾からの稲刈りツアーも行い、オーナーをさらに増やす計画だ。阿部社長は「5年後に台湾人オーナーを最大100人にしたい」としている。
台湾でおにぎり店
越里は今夏、台北市に魚沼産コシヒカリを使ったおにぎりと、新潟の名産品のささ団子を売る店をオープンさせる予定。「台北市で今年2月、魚沼産コシヒカリを使ったおにぎりを70台湾元(約300円)で試験販売したところ、1日当たり約230個と想定以上に売れた」(同社)ためだ。
阿部社長は「台北市の店では魚沼地方の映像も放映してインバウンド(外国人観光客)の誘致を推進するとともに、魚沼産コシヒカリの認知度をアップさせて台湾人オーナーをさらに増やす。農業と経済の好循環を生み出せれば」と話す。
今回のツアーを販売した瑞獅旅行の羅敏儀(ラウ・ミンリー)社長(50)も「今回を出発点に新潟の四季を楽しむツアーに拡大させていきたい」と意気込んでいる。(本田賢一)
佐賀でも同様ツアー
海外向けに田植えツアーを企画し、オーナーを募る手法は佐賀県武雄市が平成29年から実施していたが、新型コロナウイルスの影響で終わってしまった。同市は、シンガポールからの田植え体験ツアーでブランド米「さがびより」のオーナーを募っていた。
新潟県魚沼市 新潟県南部に位置し、東は福島県、南は群馬県と隣接する。積雪量は3メートルを超え、県内でも屈指の豪雪地帯。清涼な雪解け水と豊かな自然が、国内有数のブランド米、魚沼産コシヒカリを育んでいる。上越新幹線で東京駅から最寄りの浦佐駅まで約1時間半。