アニメ、ゲームの関連グッズ店やメイド喫茶などが立ち並び、関西有数のサブカルチャー街となった大阪・日本橋(にっぽんばし)。ライブハウスが集積し、ご当地アイドルがライブを繰り広げる聖地だ。ここ数年、新型コロナウイルス禍で十分なライブ活動ができないなど苦しい局面もあったが、雑誌のプロデュースから生まれたアイドルや、菓子メーカーがバックアップするアイドルなど独自の試みを展開。日本橋発の新たなアイドル文化の創造に挑む。
雑誌からデビュー
日本橋の電気街からほど近い路地の一角にあるライブハウス「日本橋ポルックスシアター」(大阪市浪速区)。関西で活動するアイドルの登竜門的な存在として知られる。ビル内には、ご当地アイドルが所属する芸能事務所、レッスン・撮影スタジオなどもあり、アイドル文化の発信拠点だ。
4月末、同シアターで5人組グループ「ROOM0205(ルームニーマルゴ)」がデビュー、約90人もの観客が駆けつけ、会場は熱気に包まれた。グループを生み出したのは、日本橋で昨年9月に創刊されたご当地アイドル雑誌「IDOLOOKIN(アイドルッキン)」だ。
誌上を中心にメンバーを募集し、レッスンもしてデビューにこぎつけるというユニークな手法が注目を集めた。初ライブを終えたメンバーらは「雑誌媒体がバックアップするなどさまざまなご縁に恵まれた。楽しみが大きい」と目を輝かせた。
同誌では、関西拠点のグループだけでなく中四国のグループも紹介。アイドルたちがカフェを訪れて撮影する企画、ライブの写真などを掲載し情報発信する。
編集長を務める向浜(むこはま)明彦さんは、日本橋ポルックスシアターを運営し同シアターと同じビルに入居する芸能事務所「910エンターテイメント」社員でもある。
ライブは生命線
創刊のきっかけはコロナ禍だ。「数年ぶりに現場を見たが、全体的なレベルが落ちていた」。昨年5月、向浜さんが西日本のライブハウスを訪れた際に感じた危機感がもとになっているという。コロナ禍でアイドルたちは活動の主軸となるライブが開けず、パフォーマンスを磨く機会が減っていたのだ。
向浜さんは「ライブは生命線なのに状況が一変した。雑誌という媒体を通じてライブ以外の活動の場を提供し、アイドルたちのモチベーションアップにつながれば」と期待を寄せる。
ROOM0205は今月31日には2度目の定期公演を同シアターで行う。今後、同誌ではさまざまなグループとのタイアップ企画などの試みも検討し、相乗効果で盛り上げを図る。
向浜さんは「新型コロナの影響を受けたなか、これまでと同じことをしていても限られたパイを奪い合うだけ。新規開拓を進めるためにはマインドを変えていく必要がある」と指摘する。
「このお菓子おいしいよ」。連休中の6日、水間鉄道が水間観音駅(大阪府貝塚市)で開催した「だがしワールド」。駄菓子を楽しもうというイベントに、5人組グループ「da―gashi☆(ダガシ)」が登場した。府内の菓子メーカーがバックアップする「駄菓子アイドル」だ。
グループは、「ココアシガレット」「ミニコーラ」などを手掛けるオリオン(大阪市淀川区)▽「フエラムネ」などのコリス(東淀川区)▽「パインアメ」のパイン(天王寺区)▽「プチプチうらないシリーズ」のチーリン製菓(同府八尾市)▽「都こんぶ」などでおなじみの中野物産(堺市堺区)―の5社がバックアップ。
各社の支援のスタンスは「金は出さないが、駄菓子なら出す」。業界団体が菓子を配布するPRイベントなどにグループを招く。メンバーそれぞれが「推し駄菓子」をもつというコンセプトだ。
芸能事務所「OFFICE MINAMIKAZE」(大阪市浪速区)がプロデュースした。こちらも日本橋ポルックスシアターが入居するビル内に事務所を構えている。駄菓子に親しんでもらうイベントの盛り上げを模索していた菓子メーカーの意向を知り、結成された日本橋発のアイドルだ。
500組時代到来へ
OFFICE MINAMIKAZEの小山武秀社長が事務所を立ち上げたのは平成29年。「日本橋が外国人観光客でにぎわっていたのを見て、情報発信拠点になると考えた」と話す。
日本橋の盛り上げに、事務所の垣根を越えた連携にも取り組んでいる。910エンターテイメントとご当地アイドルらによるコメディー劇「ハニカミ」シリーズも展開し、新たなファンの開拓を図った。今後もさまざまな仕掛けを試みる予定だ。
日本橋を中心に新たな動きが続く大阪のご当地アイドル事情。芸能ライターの田辺ユウキさんは「大阪にはお笑い文化が根づいており、アイドルでも個性的な独自の文化を築いてきた」と分析。約430組の大阪のご当地アイドルは、2年後の大阪・関西万博のころには500組時代に突入する可能性があるとみる。
そのうえで「単純に計算しても大阪のアイドル人数は1千人規模に達したといえ、無視できない勢力になりつつある」と話している。(格清政典)