27日夜(日本時間28日未明)に開かれたカンヌ国際映画祭の授賞式で是枝裕和監督(60)の「怪物」で脚本賞を受賞した坂元裕二さん(56)。授賞式では一足早く日本に帰った坂元さんに代わり、是枝監督が壇上に上がり、受賞のあいさつをした。
授賞式後、是枝監督が坂元さんに報告すると、坂元さんからは「夢かと思いました。たった一人の孤独な人のために書きました。それが評価されて感無量です」という喜びの声が返ってきたという。
「怪物」は、是枝監督が「今一番リスペクトしている」と絶賛する坂元さんとの初タッグ作だ。是枝監督が他の人に脚本を委ねるのはデビュー作「幻の光」以来で、坂元さんに対する信頼の高さが伺える。「怪物」のプロダクションノートによると、是枝監督はこれまで「脚本家と組んで映画を作るなら誰か」と問われると、必ず「坂元裕二」と答えてきたという。是枝監督はその理由をこう語る。
「坂元さんは『東京ラブストーリー』(平成3年)で脚光を浴びて以来、ずっとドラマ界のど真ん中を歩いてきた人。ところが『わたしたちの教科書』(19年)を見たときに驚いたんですよね。長く第一線で活躍しながら、こんなにもタッチを変えることができるんだって。自分を更新して、何かを変えていこうとするその姿にリスペクトを抱きました。決定的だったのは『それでも、生きてゆく』(23年)。加害者遺族という難しいテーマを、どうすればこんな精度で連ドラに落とし込めるのか。すごいなと思いました。それからはもう坂元さんの追っかけです」
撮影現場も、坂元さんへのリスペクトを感じさせるものだったという。是枝監督の現場では、撮影に応じて脚本に変更が生じ、「差し込み」(差し込み台本)と呼ばれる修正箇所のプリントが配られることが珍しくない。坂元さんは脚本について、せりふも含め、現場でどう変わっても構わないというスタンスだったが、是枝監督の考えは違った。
「坂元さんが書いた脚本に、現場で思い付いた台詞を足すのはどう考えても難しいだろうな、と。だから今回の現場では差し込みがほとんど入っていない。最終的にはせりふや動きを現場で多少加えましたが、その場合も坂元さんに事前に確認を取り、了承を得たうえで変えさせてもらった」
一方、坂元さんは是枝監督との初タッグについて、「是枝監督は世界一の脚本家でもありますから。しかも撮影現場で俳優やスタッフと対話しながら脚本を作っていくタイプの監督です。そんな仕事を引き受けた脚本家がいたら、身の程知らずだなと苦笑いするはずです。まったくもって愚か者ですね」と謙遜していた。
坂元さんは大阪府出身。19歳で第1回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞しデビュー。「わたしたちの教科書」で第26回向田邦子賞、「それでも、生きてゆく」で芸術選奨新人賞、「最高の離婚」で日本民間放送連盟賞最優秀賞、「Mother」で第19回橋田賞、「Woman」で日本民間放送連盟賞最優秀賞、「カルテット」で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞している。