泥沼の子宮頸がんワクチン訴訟 接種「勧奨」再開も見えぬ着地点

子宮頸(けい)がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)感染を防ぐワクチンを接種し健康被害を受けたとして、接種者が起こした国や製薬会社に対する損害賠償請求訴訟が長期化している。平成28年の一斉提訴から6年以上が経過した今も訴訟は全国4地裁で係属しているが、国は昨年、安全性に問題はないとして接種を促す「積極的勧奨」を再開した。双方の主張が対立する中、結論は今なお見えてこない。

ようやく専門家尋問

「(接種と副反応の)因果関係について、意味のある証言をいただいた」

今月18日に東京地裁で行われた口頭弁論終了後、記者会見した原告側代理人の水口真寿美弁護士は、こう所感を述べた。この日は東京、名古屋、大阪、福岡の各地裁で審理が続く一連の集団訴訟で初めて、専門家の証人尋問が行われた。

原告側の証人として法廷に立ったのは、信州大名誉教授で厚生労働省の研究班でも活動した池田修一医師。体の痛みや記憶障害など、ワクチン接種後の多様な症状は「既知の疾患では説明のつかない特異性がある」とした上で「ワクチン接種による神経障害」であると証言した。

訴訟では、国とともに訴えられた製薬2社(グラクソ・スミスクライン、MSD)が、原告らの症状とワクチンの因果関係を否定。個々の原告の事例について全面的に争っているため、第1回口頭弁論から証人尋問まで、6年を費やした。

双方の代理人によると、4地裁では今後、原告側証人の専門家6人の尋問を実施。来年は原告本人や被告側が申請した証人の尋問も予定されており、判決まではさらに時間がかかる見通しだ。

製薬2社の代理人は取材に対し、池田医師の証言について「こちらで聞いている専門家の話と食い違いがある」「世界の権威ある保健機関の確立した意見に真っ向から対立している」と指摘。今後の証人尋問などで改めてワクチンの安全性を主張するとみられる。

未接種の人にも症状

日本では年間約1万1000人が罹患し、約2900人が亡くなるとされる子宮頸がん。

予防策として高い期待が寄せられたHPVワクチンは平成22年に国の補助事業となり、25年4月から定期接種が始まったが、接種者から体の痛みや慢性疲労などの症状の報告があり、国は同年6月に接種の積極的勧奨を中断した。

その後、国が安全性や有効性を検証した結果、これらの症状がワクチン接種歴のない人にもみられるとの結果が出たため、厚労省の専門部会が令和3年11月、「安全性に特段の懸念は認められない」として勧奨再開を認めた。

これを受けて国は昨年4月から予診票の送付などを再開。定期接種の対象は小学6年~高校1年の子供たちで、厚労省によると、昨年4~9月に1回目の接種を受けた人は16万2898人、対象全体の30・1%に上っている。

国はこのほか、勧奨中断期間に対象だった人をカバーする「キャッチアップ接種」も実施。厚労省はウェブサイトなどで接種を促す一方、副反応を訴える人がいることにも触れ「正しく知り、『接種する・しない』を自分自身で考え、選んでほしい」と呼びかけている。

少女から成年に

国の対応が変遷する一方、訴訟の長期化に伴い原告らの生活環境にも変化が生じている。

弁護団によると、4地裁の原告総数は追加提訴のあった元年7月の132人から、今月24日時点で117人に減少した。水口弁護士は「10代だった女性が6年間裁判をしており、その間に環境も体調も変わる。今の生活に集中したいという人や、裁判を続ける負担もあり、それぞれの意思を尊重している」と説明。一部で訴えを取り下げた人がいることも明かした。

今月18日の会見には、車いすで傍聴に臨んだ20代の原告女性の姿もあった。

副反応被害を訴えることにさまざまな声があることを踏まえ、「子宮頸がんに苦しむ人も増えてほしくないし、私のように接種を受けたことで苦しむ人も増えてほしくない」とした上で、「薬害に苦しむ人を減らすためにも、副反応についてしっかりと研究してくれる池田医師のような先生を今後も応援していきたい」と、心情を吐露した。(緒方優子)

子宮頸がん 子宮の入り口に当たる子宮頸部にできるがん。性交渉によるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染がきっかけとなり、生じることが分かってきている。厚労省によると、ウイルス感染を防ぐワクチンの公的接種は世界保健機関(WHO)が推奨し、120カ国以上で実施。日本では現在、3種類のワクチンを公費で接種できる。

会員限定記事会員サービス詳細