スタートアップ(新興企業)などが人材を確保するため従業員に付与している、新型の株式報酬の課税に対する見解を国税庁が29日に公表する。これまでの企業側の認識と比べて、税負担が大きく増える見通しだ。スタートアップ育成を掲げる岸田文雄政権の方針と逆行しかねない状況で、各方面に波紋を呼びそうだ。
注目が集まっている新型の株式報酬は「信託型ストックオプション(SO、自社株購入権)」と呼ばれる。創業当時、手元に資金が少なく、高額な報酬を用意できないスタートアップが、将来の株式上場や業容の拡大を視野に株式報酬として信託型SOを付与することで、優秀な人材を確保する目的などで活用されている。
課税について、多くのスタートアップの認識は、信託型SOを付与された従業員が自社株を取得後に売却した時点で譲渡所得とみなされ、約20%の税率が従業員に課されるというもので、権利行使時には課税されないとの認識だったため、導入が進んだ。
しかし、国税庁は29日に経済産業省と共同で説明会を開き、会社側が付与した信託型SOの権利を従業員が行使して株式を取得した時点で実質的な給与に当たるとして、最大で約55%課税される給与所得に該当するとの見解を公表する方針だ。
従業員にとっては、大幅にメリットが減り、スタートアップで働こうとするインセンティブ(動機付け)が弱まる。また、源泉徴収義務を負う企業の負担も増えることになる。
信託型SOは、従業員が株式を購入する価格を会社側が設定した上で信託会社などに信託し、信託会社が従業員に配布するという仕組み。従来型のSOでは、例えば後から入社した従業員が権利を行使して株式を購入した時、すでに価格が上昇していることも多く、売却により十分な報酬を得られないケースもあった。信託型SOは従来型の欠点を解消したため平成29年ごろから導入が広がり、現在は500社以上が活用しているとされる。
岸田政権は昨年策定した「スタートアップ育成5カ年計画」に、SO活用の環境整備を掲げている。国税庁の見解はスタートアップの育成方針と逆行しかねず、政府・自民党は今後、影響を小さく抑えるための調整に入る見通しだ。