台本には「夏」とある。現代ドラマなら、キャストは半袖やTシャツでよい。江戸時代だとそうはいかない、と時代考証家の山田順子さんは言う。人々の着物は「原則夏も冬も同じ形で、袖の長さも一緒です」と。
▼違いは裏地の有無だけで、レンズ越しには分からない。そこで納涼感を出すのが、「冷や水売り」などの行商人という。素足に草履で「冷たいよー」とやれば夏らしくなる(『お江戸八百八町三百六十五日』)。それが真冬のロケでも、視聴者の目には分からない。
▼目には青葉…と書いて手が迷う。新緑を抜けたばかりの風は、すでに湿りを帯びている。北海道の東部では先週、2日続けて真夏日を記録した町もあると聞く。季節の足取りは目に映る景色よりも一歩か二歩、いや月めくりのカレンダー2枚分ほど早いようである。