<独自>不測時の食料安保で今夏に検討会 農水省、増産に財政措置

「天野米」の収穫作業=和歌山県かつらぎ町
「天野米」の収穫作業=和歌山県かつらぎ町

食料の輸入が停止するといった不測の事態に、政府全体で農家に増産や生産品目の転換を指示できる体制を整備するため、農林水産省が新たに検討会を立ち上げることが28日、分かった。不測時の対応は約20年ぶりの改正を目指す「食料・農業・農村基本法」にも盛り込む方針で、29日に開く基本法検証部会で中間とりまとめを行う。その後、今夏をめどに、食料安全保障に詳しい有識者を集めた検討会を立ち上げる。

「増産の指示については法律で明確にしないといけない」。23日の閣議後会見で、野村哲郎農水相は不測時の対応についてこう語った。

ロシアのウクライナ侵攻や気候変動の影響で近年、世界的に食料供給が不安定になるリスクが高まっている。周囲を海に囲まれ、食料自給率はカロリーベースで38%(令和3年度)と食料の大半を輸入に頼る日本にとっては、食料安保の強化は喫緊の課題といえる。

不測の事態として、たとえば紛争が起きて海上輸送が止まる事態や穀物生産国による輸出規制、気候変動による世界同時不作、感染症拡大による物流の途絶などが想定される。

こうした場合に農水省は新法に基づいて小麦農家に増産を指示したり、花農家にカロリーが高いコメやイモへの生産転換を求めたりする。スーパーや商店に対し、あまりにも高額で食料を売らないように規制したり、消費者に対して買い占めの防止を図ることなどを検討している。

農水省が独自に定める「緊急事態食料安全保障指針」にも同様の規定はあるものの、法的な強制力がないため「農家の皆さん方になかなか効き目がない」(野村氏)のが実態だった。農水省幹部によると、農家に補助金を出し、特定の品目の増産を促すなどの財政措置も検討している。

緊急事態食料安保指針では、不測の事態を宣言する仕組みや、どういった手続きを踏んで価格統制するのかも明確ではない。政府全体で連携できるよう制度設計を行う。

日本の農業の方向性を定める基本法は「農政の憲法」と呼ばれてきたが、施行から20年以上が経過し、農水省の検証部会で見直しが進む。平時の食料安保を強化しつつ、不測時の対応も改正法案に明記し、来年の国会提出を目指す。具体的な対応については、新法に盛り込む方向で検討しており、新たに立ち上げる検討会で議論を深める方針だ。

資源・食糧問題研究所代表「長期に輸入できない事態想定を」

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