福島第1原子力発電所の処理水海洋放出計画を巡り、来日して多核種除去設備(ALPS)などの機能確認などに当たった韓国政府の視察団による全日程が終了した。
団長の劉国熙・韓国原子力安全委員会委員長は「見たかった施設は全て見た」と語り、日本側の協力を評価した。
視察団の一行には、第1原発で確認した処理水の化学分析施設や海洋放出設備などの情報を正確に自国民に伝えてもらいたい。
韓国内には原発事故で生じた放射能汚染水と、トリチウム(三重水素)以外の放射性物質を可能な限り除去した処理水との混同があるという。今回の視察が処理水放出の安全性に対する警戒心を解く糸口になることを期待する。
放出される処理水は、海水で薄められ、1リットル当たりのトリチウム濃度は1500ベクレル未満になる。これは世界保健機関(WHO)の飲料水基準の7分の1の濃度であり、極めて厳格な水準を満たしての放出だ。1キロ沖の海底トンネルの出口では30ベクレル程度に下がる。大海原でさらに薄まり、海の生態系や人体に影響する可能性は限りなくゼロに向かう。
日本側は透明性を持った説明で誠意を尽くした。次は韓国側の努力が問われる番である。視察は日韓協調促進の趣旨に沿い、岸田文雄首相と尹錫悦大統領との首脳会談で実現した経緯がある。
だが韓国メディアによると、同国には科学を超えて人々の恐怖をあおる「怪談」と呼ばれる、政治色の濃い浮説がはびこる風土があるという。この問題では野党側が政権への批判に怪談を巧みに援用しているようだ。視察団長の劉氏には科学的根拠で怪談に対抗し、処理水の海洋放出に伴う不安感の一掃に全力を挙げてほしい。
劉氏は「視察内容を早期にまとめたい」としているが、日本が視察に応じたのは韓国内の安心感醸成に資するためである。岸田政権は今回の視察が韓国からの許諾を受ける案件ではないことを改めて明確にしておく必要がある。
処理水放出の安全性に関しては国際原子力機関(IAEA)の最終報告書が6月中に公表され、日本の放出判断はこれに従う。
先のG7(先進7カ国)首脳会議の宣言でもIAEAによる検証の支持が明記されている。韓国の人々の理性ある対応が両国の将来のためにも強く望まれる。