「浴びるエンターテインメント」 インド映画「RRR」人気の訳は? 56回見た人も…

公開中の映画「RRR」の一場面。ビームとラーマという2人の青年をめぐる友情と葛藤が、印象的な劇中歌とともに描かれる(配給:TWIN)©2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.
公開中の映画「RRR」の一場面。ビームとラーマという2人の青年をめぐる友情と葛藤が、印象的な劇中歌とともに描かれる(配給:TWIN)©2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.

映画「RRR」が日本で公開されたインド映画としては異例のヒットを見せている。興行収入は20億円を突破。交流サイト(SNS)には、鑑賞回数の報告や、劇中のダンスをまねた動画などの投稿があふれる。物語の舞台はイギリス統治下のインド。ビームとラーマという2人の青年をめぐる友情と葛藤を描いた作品で「浴びるエンターテインメント」との評もあり、なかには56回も鑑賞した人も。その人気の理由を探った。

思い思いに

「ビームゥ!」「ラーマかっこいい!」。大型連休中、塚口サンサン劇場(兵庫県尼崎市)で開かれた「RRR」の応援上映会。男女約150人のファンが、主人公たちの活躍に声を張り上げる。通常上映とは異なり、歓声を上げたり、鳴り物を鳴らしたりしても大丈夫。観客が思い思いに感動を共有する。

インドの民族衣装「サリー」に身を包むなど登場人物のコスプレを楽しむファンの姿も。戦闘シーンではクラッカーを鳴らして主人公らを鼓舞したり、ダンスの場面では立ち上がって一緒に歌ったり踊ったりしながら作品を楽しんでいた。

映画「RRR」の応援上映では、観客らが歓声を上げたり、踊ったりしながら思い思いに作品を楽しんでいた=5月5日午後、兵庫県尼崎市の塚口サンサン劇場(小川恵理子撮影)
映画「RRR」の応援上映では、観客らが歓声を上げたり、踊ったりしながら思い思いに作品を楽しんでいた=5月5日午後、兵庫県尼崎市の塚口サンサン劇場(小川恵理子撮影)

応援上映を企画した同劇場映画営業部次長の戸村文彦さんも「インド映画でここまで人気が出る作品は記憶にない」と驚きを隠さない。

配給するTWIN(東京)によると、昨年10月21日の公開から興行収入は20億円を突破。日本で公開されたインド映画では、歴代1位を記録した。

3時間に及ぶ大作だがリピーターも多いとみられ、交流サイト(SNS)には「#追いRRR」の投稿が目立つ。劇中歌「Naatu Naatu」(ナートゥ・ナートゥ)に合わせて、主人公らがダンスする場面をまねた動画も数多く投稿されている。

戸村さんは「絶対に楽しませてやろうという制作側のエネルギーに飲み込まれる。見るというより浴びる感覚ではないか」と話す。

圧倒的なエネルギー

応援上映にきていた神戸市の40代の女性会社員は、この日がなんと56回目の鑑賞。「見るたびに新たな発見があって飽きがこない。迫力シーンの連続で体が熱くなる」と興奮気味だ。インド映画は見たことがなかったというが、血が沸き立つような感覚が忘れられず、週1~2回、映画館に通うようになったという。

3回目の鑑賞という大阪府吹田市の男性会社員(41)も「現実ではあり得ないシーンもあるけど、勢いと迫力ある映像で説得力を持たせている」と話していた。

ヒットの理由について、配給会社の担当者は「迫力のある映像に加え、少年漫画に通ずる『友情・努力・勝利』の要素が、漫画文化に慣れ親しんだ日本の観客に受け入れられたのではないか」と分析。口コミでも評判が広まったとの見方を示していた。

年2000本

全編を通して歌って踊る-。そんなイメージもあるインド映画だが、映画評論家のバフィー吉川さんは「ステレオタイプのイメージ通りの作品もあるが重厚な人間ドラマからアクション作品まで、もはやインド映画と一くくりにできないほど多様な作品にあふれている」と魅力を語る。

公開中の映画「RRR」の一場面。主人公のビームとラーマが劇中歌「Naatu Naatu」に合わせて披露したダンスも見どころの一つだ(配給:TWIN)©2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.
公開中の映画「RRR」の一場面。主人公のビームとラーマが劇中歌「Naatu Naatu」に合わせて披露したダンスも見どころの一つだ(配給:TWIN)©2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.

インドは多言語国家でもあり、それぞれの言語圏ごとに年間200~300作品が制作される。総務省統計局の調査では、2016年の同国内の制作本数は約2千本。中国(853本)や米国(656本)をはるかに超える。

南部は神話や地域の伝承がベースとなった作品が多いのに対し、米ロサンゼルス・ハリウッドになぞらえて「ボリウッド」と呼ばれる北部は、アクションや人間ドラマなど伝統的なインド映画とは一線を画した作品が多い。

バフィーさんは「日本ではまだ見られる作品は少ないのが残念だけど、インド映画は知れば知るほど奥が深い」と話していた。

(小川恵理子)

RRR(アール・アール・アール)

1920年、イギリス統治時代のインドが舞台。イギリス領インド帝国の総督に連れ去られた村の少女を救うために立ち上がるビームと、大義のために警察官となり帝国に仕えるラーマの2人の青年が出会い友情を育む。使命と友情のはざまで葛藤する2人の姿が、印象的な劇中歌や迫力満点の映像で描かれる。劇中歌「Naatu Naatu」(ナートゥ・ナートゥ)に合わせて、2人が披露する息の合ったダンスも見どころの一つ。第95回アカデミー賞では「Naatu Naatu」がインド初の歌曲賞を受賞した。

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