「あなたはとてもいい男役になれたと思う」。私をよく知る男役スターは云(い)った。退団公演の最中にそう言葉をかけられ、娘役の道を究(きわ)めていた私の心中は複雑であったものの、それは本心からの褒め言葉のようで少し誇らしい気持ちになったのを憶(おぼ)えている。「あなたと組む娘役はきっと幸せだと思うから」。その男役は言葉を継いだ。
女性のみで構成される宝塚には男役と娘役という2つの役割が存在する。それぞれに伝統によって作り上げられた一種の型があり、生徒はそこに基づいて自己のスタイルや価値観を形成していく。それは言い換えるとステレオタイプな男性像・女性像の体現であり、芸事のみならず、在団中あらゆる私的な部分にも適用され、実践されていく。