小林繁伝

新主砲・掛布が意地の一発 紅白戦で初対決 虎番疾風録其の四(231)

紅白戦の二回、小林⑲から左翼へ本塁打を放つ掛布=昭和54年3月1日、甲子園球場
紅白戦の二回、小林⑲から左翼へ本塁打を放つ掛布=昭和54年3月1日、甲子園球場

高知・安芸での春季キャンプを終え、猛虎たちが帰ってきた。

昭和54年3月1日、甲子園球場で恒例の〝有料紅白戦〟が行われた。有料といっても入場料は100円。ネット裏でも内野席でも料金は同じ。すべて自由席で、いい席は早い者勝ち。

白軍の先発は小林。この日は木曜日で試合開始は午後1時。この時期の甲子園球場はまだ寒い。それでも〝予告先発〟のおかげで4千人のファンが詰めかけた。

「紅白戦は味方が相手だし、初めての実戦なので、ボクの試したいシュートなんかはまだ投げられない。まぁ、遠慮しながらやらせてもらいます」

こう言って小林は大歓声の中、甲子園球場のマウンドに立った。


◇3月1日 甲子園球場

紅軍 010 201 030=7

白軍 000 000 000=0

(勝)上田 〔敗〕小林

(本)掛布(小林、安仁屋)


見せ場は二回にやってきた。先頭で新主砲・掛布との初対決だ。

1球目=ボール。2球目=ファウル。3、4球目=ボール。そして5球目、外角高めのストレート。

「カーン」と快音が響くと打球は左翼へ伸びる。そのままラッキーゾーンへ飛び込んだ。

小林が安芸へやってきた日、ミーティングの席で「阪神には伝統がない」といった言葉に「この人には負けない」と誓った掛布の〝意地の一発〟だ。

「小林さんはタイミングが合わせにくいんだけど、うまくバットが出ました」

実は前夜、掛布は大阪・豊中市に住む婚約者・住谷安紀子さんの実家に立ち寄っていた。もちろん、ここでもバットは離さない。いや、その日はスポンジボールを打った。トスをするのは安紀子さん。慣れないトス。「軽く、フワーッと下から」と優しくアドバイスされながら一生懸命にボールを上げた。

この日、掛布は続く四回の第2打席でも、安仁屋の内角スライダーを右翼ポール際へ連続アーチ。ちょっぴり早い〝内助の功〟である。

さて、打たれた小林。

「真っすぐが走っていたので、コースを狙わずにストライクを取りにいった。歩かせると見にきているお客さんに悪いですからね。でも逃さずに打つ掛布はさすがです」

ちょっぴり強がってみせた。(敬称略)

■小林繁伝232

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