主張

対馬での文献調査 10自治体の応募が理想だ

原発の使用済み燃料に含まれる高レベル放射性廃棄物(HLW)の最終処分地探しの入り口に当たる「文献調査」に向けた新たな動きである。

長崎県対馬市の商工会が市議会に文献調査の受け入れ検討を求める請願の提出を決めた。

長崎県建設業協会対馬支部も既に同様の決定をしており、6月下旬の市議会定例会で審議される見通しだ。

文献調査は約20年をかけて3段階で進む選定の第1段階で、令和2年の秋から北海道の寿都町と神恵内村で実施されている。

海外に目を向けると、フィンランドやスウェーデンなどの最終処分場決定の成功事例では、10自治体ほどの初期候補地からスタートしている。だが、日本では原発が戦後経済の高度成長を支えたエネルギー源であるにもかかわらず、HLWの後始末に対する国民の関心は高くない。

全国民で考えるべき問題が、北海道だけの課題となりかねないため、国や原子力発電環境整備機構(NUMO)は各地での説明会などの広報活動に力を入れ、後続自治体の出現を待っていた。

そこに芽生えた対馬での動きである。静かに市議会での議論を見守りたい。対馬市民には、北海道の2町村での2年余の文献調査と並行して進んだ町おこし、村おこしの議論の深まりが参考になるはずだ。対馬も多くの地域の例に漏れず人口減少が続いている。

HLWの処分地探しは、原子力発電を半世紀以上、利用してきた日本にとって先送りできない重要課題だ。すでに大量の使用済み燃料が生じており、各原子力発電所での貯蔵能力も限界に向かっている。それを忘れると日本のエネルギー政策は行き詰まる。

対馬市が新たな文献調査地点に加われば、応募への関心を持ちつつも踏み切れないでいた自治体の背を押す効果も生まれよう。

折しも4月末には、HLWの最終処分に関する基本方針の改定が閣議決定されたところである。処分地探しへの国の取り組み強化を盛り込んだ内容だ。

関心地域を対象に、文献調査の受け入れ判断の前段階から、国による地元議会などへの理解活動の働きかけもあるという。

原子力発電は資源貧国・日本にとっての生命線だ。持続可能なエネルギーとするためにもHLWの最終処分は避けて通れない。

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