ウクライナ侵略を続けるロシアのプーチン政権が、ウクライナ軍が近く乗り出すとみられる本格的な反攻作戦に神経をとがらせている。ウクライナ軍に支配地域を大規模に奪還されたり、死傷者が一段と拡大したりすれば政権への打撃は必至だ。露当局はテレビCMまで流して契約兵を勧誘し、兵力の補充を急いでいる。露西部でロシア人義勇兵とされる部隊が攻撃を仕掛けたとされる中、求心力の引き締めを図っている。
ウクライナのゼレンスキー大統領や同国政府高官は今年初めごろから本格反攻にたびたび言及。欧米側から反攻の原動力となる戦車や戦闘機、長距離ミサイルなどの供与を受けた。ゼレンスキー氏は「反攻は必ず行う」と表明している。
こうした中、露国防省は今春から契約兵の募集キャンペーンを大々的に開始した。露国営テレビで流れる勧誘のCMは「今の仕事で満足か? 君は男だ」と訴えつつ、「月収20万4千ルーブル(約35万円)から」と国民の平均月収の2~3倍の報酬を提示。街角には「祖国を守る仕事。尊敬・名誉・十分な報酬」と書かれたポスターが多数貼られ、人通りの多い場所には簡易の契約受付所が設置された。
露国防省は今月22日、「年初以降に11万7千人が新たに軍と契約した」と発表した。ただ、露独立系メディアによると、同省は契約兵計40万人を集めることを目標にしているという。
ロシアが契約兵の増員を急ぐ背景には、露軍に「20万人以上」(米政府推計)もの死傷者が出ているとされる中、ウクライナ軍の反攻に遭い、戦線を支えきれなくなることへの危惧がある。多数の国民が国外脱出した昨年9月の「部分的動員」の経験を踏まえ、契約という形をとることで国民内に反政権機運が高まる事態を回避する狙いもある。
ウクライナ軍の反攻へのロシアの危機感は強い。ロシアが一方的に併合を宣言した南部ザポロジエ州の親露派勢力幹部、ロゴフ氏は今月19日、タス通信に「前線付近に約6万5千人のウクライナ軍部隊が待機している」と発言。面積の6割超が露軍の支配下にあるザポロジエ州は戦略的重要度が高く、反攻の主目標になるとの観測が出ている。
露軍側で参戦している露民間軍事会社「ワグネル」トップのプリゴジン氏も4月、「ウクライナ軍が反攻を始めれば露軍は防衛線を突破される可能性がある。そうなれば国民は敗北の責任者を探す」と指摘。反攻の経過次第ではプーチン政権が揺らぐ恐れもあると警告した形だ。
プリゴジン氏は「大局的にみて露軍がこれ以上前進できる可能性は低い」とまで述べ、反攻に直面する前に現在の前線を「境界線」として停戦交渉を開始すべきだとする考えも示した。
プーチン政権は新たな問題も突きつけられた。ロシア人義勇兵とされる部隊が22日、ウクライナ側から露西部ベルゴロド州に越境攻撃を展開。23日には「撃退した」と発表したが、ロシア国内では破壊工作が相次いでおり、当局が対応に追われている。