写真紀行・瀬戸内家族

新緑の里山を鯉のぼりが彩り

今年の春に因島に帰省した際、新たな名所を訪れたのでご紹介したい。

同島のほぼ中央に奥山ダムという水がめがある。もとは「奥山大池」という溜池だったものを、安定した農業用水の確保を目的に2009年にダムとして竣工(しゅんこう)したものだという。その上空に今年からお目見えしたのが写真の鯉(こい)のぼりになる。今は使われずに家で眠っていた鯉のぼりを集め、桜の季節から5月末頃まで空を泳がせるようにしたらしい。春のまばゆい光を湛(たた)えた青空を背に、大小さまざまな鯉のぼりが舞う眺めは壮観だ。

この奥山ダムの周辺は、「自然を愛する中庄の会」を中心にこれまで里山緑化運動が進められてきた。写真に写る桜も、地域の人々がオーナーになり数年前から植樹してきたものになる。最近はそうした活動が実り、憩いの場としてウオーキングを楽しむ人が増えたという。そこにこの鯉のぼりが加われば、より多くの人々が集い親しむ新名所になること間違いなしだろう。

風薫る5月は、桜をはじめダムを囲む山々も鮮やかな新緑に彩られる。爽やかな陽射(ひざ)しが降り注ぐ中、色とりどりの鯉のぼりが里山の風景と絶妙なコントラストを描き出しているはずだ。

小池英文(こいけ・ひでふみ)写真家。東京生まれ。米国高校卒後、インドや瀬戸内等の作品を発表。広島・因島を中心に撮影した写真集「瀬戸内家族」(冬青社)を出版。ウェブサイト「http://www.koike.asia/」

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