あなたはどう考える?
性的少数者(LGBT)への理解増進を図る法案を巡り賛否が渦巻いている。今年2月の世論調査では、推進すべきだとの回答が過半数となり、多様性を重視する潮流の中で、LGBT法案が必要と考える人は若者を中心に多いようだ。だが、当事者から疑問視する声が上がり始めるなど、慎重論も根強い。
慎重論の背景にあるのは、主にLGBTの中でも、生まれたときの性別と異なる性を生きたいとの「性自認」を抱くトランスジェンダー(T)への対応だ。公衆トイレや公衆浴場でトランスジェンダー女性(生まれつきの性別は男性、性自認は女性)の利用が日常的になれば、多くの女性に不安を与えかねない。
また、性自認を偽り悪用した犯罪行為を誘発するとの指摘があり、トイレや浴場の利用時にトラブルが生じ、訴訟リスクが高まる懸念も広がっている。
さらに、子供たちにとっても悪影響を及ぼしかねない。福井県立大名誉教授の島田洋一氏は、幼少期に偏ったLGBTへの問題点を教わることで、性観念が不安定な子供を混乱させるデメリットを指摘する。
このような不安が広がれば、性自認や性同一性障害に悩み、真に保護や権利を尊重すべき人たちにとっても望ましい社会とはいえないだろう。実際、LGBTの当事者団体などが拙速な法案審議を避けるよう、岸田文雄首相に要請している。
差別意識や嫌悪感少ない日本
一方、令和3年に超党派議員連盟で合意した法案の文言については、自民党内で反対論が相次いだため、18日に与党の修正案が国会に提出された。ただ、主な修正点は「性自認」を「性同一性」に、「差別は許されない」を「不当な差別はあってはならない」とした程度。前者はいずれも英訳すると「gender identity(ジェンダーアイデンティティー)」であり、後者についても大きく改善されたとは思えず、根本的な懸念払拭になっていない。
推進派は、LGBTの権利保障は人権問題で、法案で差別意識をなくさなければならないと主張。先進7カ国首脳会議(G7)の参加国で、LGBTの権利保護に関する法整備において日本が遅れていることを強調している。当然ながら差別をなくすことは重要であり、LGBTについては欧米が先進的であるのは確かだ。
だが欧米では過去にキリスト教の一部宗派の教義で同性愛を禁じていたことで、「不当」な差別を受けてきた歴史を踏まえているからであり、日本ではこのような過去や現状が問題視されたことはない。
むしろ古くから文学作品にLGBTが描かれるなど、ある程度社会に受け入れられてきた。近年、テレビ番組で日常的にLGBTのタレントが多数登場していることを鑑みれば、差別意識や嫌悪感を抱く人が極めて少ないことの表れだろう。
持論や本音が言えない風潮
LGBT問題をテーマに記者同士でも議論したが、他にもさまざまな課題が内包されていることに気が付く。
問題を複雑化させている要因として「LGBTに関して持論を展開すると、すぐに炎上してしまうことが多く、本音で議論できない」と、現状に疑問を抱く記者がいた。
また、メディアの報じ方について指摘した記者もいる。「当事者の苦悩に偏っている感がある」とし、懸念を抱く人たちの思いも同等に報じることで「世論は変化していくのではないか」との提案もあった。
議論を通じて思うことがもう1つある。LGBTに差別意識がなく、受け入れてきた人たちが法案の議論によって「日本は差別が横行する法整備が必要な社会」や「日本でも差別されてきた人々」などとの誤認が広がれば、それこそ本末転倒だ。
そもそも日本は憲法14条で「人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」としている。その中で、LGBTに特化した法整備が本当に必要だろうか。
LGBT(性的少数者) 女性の同性愛者であるレズビアン(L)▽男性の同性愛者であるゲイ(G)▽両性愛者であるバイセクシュアル(B)▽生まれたときの性別とは異なる性を生きたいと願うトランスジェンダー(T)―のこと。英語の頭文字をつないでLGBTといわれる。LGBTのいずれにもあてはまらない人をクィア、クエスチョニング(Q)に分類することもある。支援団体や民間調査機関などによると、国内でLGBTなどに該当する人は3~8%とされる。
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今回のテーマを担当するのは…大阪社会部次長 津田大資(つだ・だいすけ) SNSなどのネットコンテンツよりテレビが好きな入社25年目の49歳。好きな番組は「月曜から夜ふかし」。座右の銘は「滅私奉公」。
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「世論(せろん)」と「輿論(よろん)」は近年同一の意味とされています。しかし、かつて、世論は世間の空気的な意見、輿論は議論を踏まえた人々の公的意見として使い分けられていました。本コーナーは、記者と読者のみなさんが賛否あるテーマについて紙上とサイトで議論を交わし、世論を輿論に昇華させていく場にしたいと思います。広く意見を募集します。意見はメールなどでお寄せください。
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